発会記念山行
  
   昭和四十四年五月ー八日

 矢板岳友会発足記念山行を高原山の木ノ芽沢にて実施したのは

会としてある意味を込めていた。

 高原山は、塩原火山群の総称で、スキー場として名高い鶏頂山

のある山といった方がわかり易い。この山の東側に八方ケ原とい

う放牧場があり、その東端につきあげている小さな沢が木ノ芽沢

である。

 矢板市内及びその近郷に住む会員は、それぞれ県内外の比較的

大きな山々に各自のトレイルを印して来た連中であるが、那須と

高原山の中間部においては身近にありながら薮山であまり魅力を

感じていなかったせいか、一部の山域を除いて会として未知の山

々であつたわけである。そんな会員の今後の活動方針として、栃

木県北のこれらの山域に積極的に足を踏み入れるべきだという意

見に一致を見、その手始めに選定されたのがこの沢であった。

 この後、那須山域の白水沢と苦土川の沢登りの記録集を二回発

表するまでになり、さらに継続テーマとして塩原山域の沢へと活

動を予定している会の活動の出発点でもあったわけである。さら

に、今まで大して見向きもされなかった小さな沢でも以外に立派

なフォールがあったりして、近くの薮山の良さを再認識するには

木ノ芽沢は一番手頃であると判断して案内したわけである。距離

的に近く、しかも高原山登山者のほとんど入り込まないここは、

ガイドブックにも登山道として発表されていないため、静かで澄

んだ水の流れあり、会員にも気に入られたと見えて、その後忘年

山行や山菜会やらと何度か利用されるに至っている。

 ここの良さは春先にある。木ノ芽沢の名前通りだ。バス終点の

山県農場から木ノ芽沢林道終点付近までの間約一時間、イチリン

ソウ、ニリンソウ、ヤマプキソウ、エンレイソウ、シュンラン、

ユイザンスミレ、イカリソウ、と次々に眼を楽しませてくれる。

林道第二の橋より五十mほどの下の崖からは二枚貝の化石が多量

に出、さらに崖より一本の滝が出ている。飲んベーどもは養老の

滝と名付けて喜んでいたが、この一帯はフキやタカナが多い。林

道終点より右岸を歩くと砂防ダムがあり、このちょっと上より沢

に下る。ここから二俣までは大きな石の上を飛びはねたりして左

岸、右岸へと何度か変わりながら歩くのだが、イワタバコやヤシ

オツツジの群落に出会い疲れなど出るはずもない。この沢の左岸

の上の尾根には登山道があるが、ほとんど通る人もなく、中間付

近の岩場にはセンボンヤリが咲いている。右岸の尾根にある登山

道が八方ケ原へのハイカーの通る道である。砂防ダムより二時間

ほどで二俣に出る。この一帯にはヒトリシズカ、キクザキイチリ

ンソウ、ゴンベロ(カタクリの地方名)の群落がある。この二俣

には二段の滝があり、トンボの滝と云っているが、いつ来てもこ

の付近での昼食は楽しい。ここより右俣の方が滝も多く、沢とし

ても面白いが、今回は左俣へ入ることにした。途中五mの滝が一

本あるだけで、沢の水もほとんどなくなったあたりより左の薮に

逃げ登山道へ出た。二俣より約二時間である。山県農場まで一時

間ちょつと飛ばして下山、さらに上伊佐野まで歩いてバスに乗る。

駅前で飲んだビールのうまさにもまして会員の親睦を深め、楽し

い笑いのうちに終了出来たし、このムードが今も会の中に脈打っ

ている事を考えると大成功であったと自負している。


(参 加 者)小林、吉野、浅川、白石、近藤、落合、蓮實

(コースタイム)8:00矢板駅−8:35山県農場−9:15〜9:35第2の橋

          −11:40〜12:30トンボの滝 −2:20登山道 −4:00

        山県農場−5:08上伊佐野ー5:30矢板駅

(略  図)