還暦に登った山
                                     小林充

  午後から仕事が入っていたので、早起きして五時に家を出た。途中、開いて

いる店で朝食を買い、大間々台に着いた。無線のアンテナを立てた数台の車が

あったが、登山者は誰も居なかった。水場から山道に入り、息を切らしながら

やっと尾根道に出た。天気もまずまずで、県民の森のかなたに、矢板の町もよ

く見えた。運がよければ、富士山も展望出来る所であるが、六月のこの時期で

はとても無理だ。

  八海山神社の祠の前で、大休止。好物の握飯を食べる。ここから釈迦ケ岳の

コースは、ヤブが深く歩く人が稀であったが、昨年から矢板岳友会の手で数回

の手入れが行われ、今では安全に歩ける様になった。

  一五九〇m峰を過ぎると、道は下り坂になる。二万五千分の一の地形図に示

される剣が峰は、南面を巻く様になる。ここからは塩原町と塩谷町との境界尾

根で、小さなピークを登ったり下ったりしながら、切り開きの道を進む。正面

には大きな釈迦ケ岳、右手にはスッカン沢を、明神岳が近くなって来ると、最

後の登りが待っている。二〜三ケ所いやな場所があるが太い倒木をくぐると、

スキー場からの分岐になる。

  左に五分ほど歩けば、釈迦ケ岳頂上である。一等三角点(一七九四米)だけ

に、日光、那須、南会津の山々が一望でき、南には広大な関東平野だ。五〇人

も座れば一杯になる様な、広場である。

  握飯を食べていると、話声がして、三人連れが登ってきた。先頭に歩いて来

るのは、白石哲ちゃんである。奥様と一緒に登って来た。街でも滅多に逢わな

いのに、偶然にも釈迦ケ岳山頂で山男に逢う事が出来るなんて、今日は最高の

日なのかも知れない。六〇歳の記念に登ってきたので写真を写して頂いた。

  来年は酒飲みを連れてくるかと、そんな想いで帰途についた。