これまでの山行を振り返えると泣いたり笑ったり
怒ったりと結構いろいろある ものである。
印南 睦美
※
残雪期がいちばん楽に行けるという。一泊になるかも知れないと出かけたの
であるが、頂上をふんだら「人間どこまでやれるかやってみましょう」とかけ
下りることになる。
最後の林道の長いこと。月がこうこうと輝いている夜になっていた。8時を
まわっている。早朝から歩きずめ、2人はさっさと行ってしまい後ろ姿も見え
ない。もうとうに歩くのはいやになっていた。『スチライキだ』と座り込み、
月をみながら休む。『もう、いい・・・』ずっと走っていたような一日であっ
た。
※
左稜線、これから核心部、さあ行くぞ!その前に腹ごしらえ と思ったら、
食糧、忘れた・・・。Eさんのおこること、おこること。ごめん と言えない
ほどに・・・。
天の助けか、Tさんのザックは魔法のザック、次から次、お菓子がでてくる、
でてくる。
※
冬山合宿、越後駒。朝早くテント発。Kさんの歩幅、歩調に合わせてついてい
く。皆はまだこない。無風。音が消えた。『あー静かなり、静かなり・・・』
=
仕事の都合で、前発より一日遅れで出発。矢板から雪、バスを降りた登山口は
トレースもない。ラッセルで進む。何パーティかあったけれど、我々が最後に
なってしまう。途中でビバークになるかもしれないという不安がよぎった頃、
無線で交信できる。向えに来てくれるという。ホッと一安心し、心強くなり歩
き出しまもなく合流。向えに来てくれたSさん、ザックを持ってくれるという
好意をことわると『かわい気のねえ女だな!!』ときつーーい言葉。自分の力
で最後まで頑張りたかった。ただそれだけ・・・。BCに付いてTさんの顔を
見たとたん、涙腺がゆるんでしまった。
Tさんは、それはそれはうれしそうに迎えてくれた。
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谷川強化合宿の名を借りて、監督の会の人を含めて5人で入る。晴れたいい日。
いつもの調子でせっせと歩く。土、日。金、土、日の合宿のせいか歩調もいつ
のまにか速くなっていたようだ。後ろからついてきながら『スゲーな!!』と
ぼやきか、驚きか、成女3人、ニヤッと、うれしくもあり。
取付。『こわい!!』『ザイルほしいなあー』『この緊張感がたまらないんで
すよ』ザイルなし。この緊張感、やみつきになりそう。
※
13時間も歩いた、庚申山、鋸山、皇海山、六林班峠、長かった。びしょぬ
れでたどりついた皇海山頂上でのたき火。『あたりなさい』との暖かった言葉。
寒さを感じることもなく、心もぬくぬく。
六林班峠のしゃくなげの大木。満開に咲き誇っていた。
※
皆の心はすさんでいた。
一週間近くの天気待ち。やっと雨があがり、氷河を見に出かけることにした。
前に来た時は、ポンとはねて通れるほどの沢だったのに降り続いた雨のせいで
川のようになってしまっている。渡渉しなければならない。
足をとられないように慎重に進む。一歩一歩ゆっくり足を進めて行くが、水に
入ると流れはとてつもないパワーでおそってくる。ちょっとよろめいただけな
のに、Kさん、流されるようにたおれた。
スローモーションを見ているようだった。あーー!!と手をさしのべるより早
く泳ぎだして『やけくそだ!!』
いつもなら、待っていてくれる人達だったのに、渡り終えたらさっさと行って
しまった。
皆の心はすさんでいた。
Kさんも渉ると、強心にももくもく歩いて行った。その後をだまってついて行
く。
氷河を見ても、楽しい会話もなく、そそくさに帰ることになる。バラバラ。そ
れぞれのペースで・・・。途中Yさんより、リリーが咲いていたと聴き、その
場所までもどることにする。皆はさっさと行ってしまっている。それはそれは
愛らしい、いとしいくらいにかわいい花だった。すさんでいた傷口をやさしく
手当てしてくれたように思えた。もう少しここで一緒にいたいけれど長くもい
られない。急いで急いで行く。それでも遅かったのだろう。心配していてくれ
たのかと思う間もなく、『何をしてたの!このグズ!!』『このひねくれもの
ーーー』。すごい罵倒。
皆の心はすさんでいた。
かたくなに口を閉ざしていた。声を掛けても言葉はでてこなくなった。出てき
た言葉、山に入ってからは『ぶっころしてやる!!』『みーーんな道ずれにし
てやる!!』
皆の心はすさんでいた。
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妙義の稜線を歩きに、Oさん、Kさんと一緒。『ザイルほしいなあー』とい
ったら『何言ってんだ。印南は!?』とOさん。『どうしたの、印南さんらし
くない?』。Kさんが笑う。
冗談ではなくこわかった。ひざはがくがくしていたのだ。この緊張感がたまら
ないんですよ!!が恐怖感になってしまった。
※
御神楽岳の話になるといつもぼやくMさん。蟻に悩まされ、廃校のぶきみに
驚かされトップをすることになったMさん。どちらがトップをするかはジャン
ケンで決めたと思っている私であるが、それぞれの記憶はあいまいなもので
『男でしょ!』と言われたといつも言う。全く私は覚えていないのだが・・・。
そのお返しは西穂から奥穂の縦走でジャンケンで負けた私は先に行くことにに
なった。
※
浅草岳山スキー。幅広い稜線の滑降は最高に気持ちいい。頂上でワイン3本
を開け、ほろ酔い気分。飲酒運転のようであったけれど力むことなくすべる、
すべる。風をきる、きる。気持ちいいーーー。最高ーーー。
※
飯豊。明日は下る日。嵐があと1日待ってくれれば・・・。嵐に見まわれ、一
歩も出ることは出来ない。テント幕営の人達もぞくぞくと小屋に非難してくる。
ポールが折れてしまったり、テントをつぶされたり。
びしょぬれである。そんな人達をシュラフに入ってながめていた。私達にしても
食糧は底をついていた。個人の非常食、ワンタッチライスのみ。空腹で動けない。
なるべくエネルギーを消耗させないように寝るしかなかった。
天候の回復を待ち、小屋を出る時に食べようとおにぎりにしておいたが目を覚
ましたら、ない・・・。『早いもの勝ちだもんね・・・』『・・・』ふらふら
で下山する。何とも災難は続くもので矢板駅に降り立ち、車の所まで歩き出し
たらあられに見舞われる。いたい。いたい。20分ほどの道程。着くまで続い
た。
※
強化合宿に行くため仕事を終すとザックを背負い、矢板駅まで走る。いつもの
ことだが、トマト生産者のIさんご夫妻。軽トラックを止め、ヘルメットいっ
ぱいにトマトを入れてくれた。こぼれそうなので走れず大事に大事にだいて持
って歩いていると、同級生のK君に勤め先でバッタリ会う。『どうしたんだ?』
『トマト食べる?』K君の両手いっぱいにのせ、ばいばいと別れた。(この時
がK君とのこの世での別れになってしまった。)
途中、知っている人達に分け、合宿に着く。その晩のトマトは格別においしか
った。それから10年後、例会終了後、病院の駐車場でIさんとパートのKさ
んと偶然にもバッタリと会った。あまりにもうれしく3人手を取り合った。i
さんは涙をポロポロこぼし、手を離そうとはしなかった。百姓の手ではなく、
とてもやわらかい手だった。入院していたという。
※
髪の毛1本が風によってたたかれるととてもいたいこと知っていますか。格好
なんか言っていられない。タオルをホッカブリして髪の毛をかくす。栗駒でH
さんのめがねが天に舞った。それをとろうとしたHさんも飛ばされた。稜線を
はって下りてきた。
それでも仙台の牛タンはおいしかった。
※
山での事故の報告をTさんには話しておかなくてはと思い、外から聞こえてく
るよりも自分で報告したかったし、何か答えが欲しかったのかも知れない。何
があっても生きていればいいんだ。男はロマン、女は不満、いつも言ってた。