ニュージーランド顛末記


                                                           東  和之

 休みが取れそうだから外国にでも行こうやと誘われ、ニュージーランドならい

いよと気楽に答えていたところ、いい先輩は着々と準備を進めてくれていた。お

かげで出国の日を迎えることができた。

  1993年12月11日の朝、ビッグホーンを転がし成田空港まで行き、車の

中に厚手の上着を放り込む。イザ飛行機に!と意気込んだところが…案内板には

「欠航」の文字が!

  ニュージーランド航空の部品などの集積地は香港らしく、エンジントラブルで

壊れた部品を香港から取り寄せ夜通し修理をし明朝には出発するという。仕方が

ないので、航空会社が用意したホテルへバスで連れていかれた。

  翌朝ホテルで朝食を摂り、バスで空港へと向かう。今日は飛行機、上手に飛べ

るかな。

  どうやら空に浮かぶことができ、クライストチャーチに向かって飛行を始める。

本を読んだりウトウトしたりを何度となく繰り返す。禁煙席に乗ってしまったた

めタバコが吸えないのも苦しみの一つ。エコノミークラスは狭いしで(ビジネス

クラスに乗ったことはないが)いい加減飽きてしまうがまだ着かない。

  やっと着いたクライストチャーチの空港には大きなクリスマスツリーが飾って

あり、以前にキナバルに行った時に見た夏のクリスマスツリーに外国を感じる。

クライストチャーチのホテルで一夜を過ごし、全く町を観光することなく翌朝に

は、マウント・クック航空のプロペラ機に乗り込みマウント・クックのふもとの

テアナウ空港まで飛ぶ。空港からはマウントクックの山頂が見える。

  テアナウにあるミルフォード・トラックの基地になるトラベロッジに入り明日

からのトレッキングがようやく現実味を帯びてくる。日中は土蛍を見たりの観光

をし、夜はトレッキングの打ち合わせが開かれる。約30人のパーティになる。日本

人・アメリカ人・南アフリカ人・オーストラリア人等々、様々な国の人からなる

混成パーティである。

  12月14日、朝食を済ませるとバスに乗り込みほんの数分走るとテ・アナウの

町から外れてしまう。窓からレイク・テ・アナウを見ながらバスに揺られ、船着き

場からに船に乗る。ミルフォード・トラックは、完全予約制で一方通行であり同一

個所に連泊とかもできないため、当然すれ違う人も見知らぬ人も皆無になる。船を

下り5分ほど歩くと2泊目のグレイドハウスに着く。

 ここミルフォード・トラックのトレッカーは、上下をポリプロピレンなどででき

たでアンダーシャツを着用しその上からTシャツや短パンを履く。日本では見慣れ

ない格好に戸惑うが実際にやってみると寒くもなく手足にフィットしてなかなかい

いものである。

  12月15日の朝からいよいよトレッキングも本格的になってくる。朝食時に昼

の弁当が配られ、トレッキングコースのあるクリントン川沿いの道をゆるゆると登

っていく。木道が使われるところでは、歩くところに細かい目の金網が張ってあり

滑らないようになっている。クリントン川は大切に保護されており水は本当に澄ん

でいる。鮭の仲間の大型の魚(70cmはあろうか)も悠然と泳いでいる。昼食時に

はカラスくらいの大きさのオウムの仲間の「ケア」が寄ってきて餌をねだり手から

食べたり食べ物を奪ったりのイタズラをしたりする。

  トレッキングにはリーダーが付くが一番前と最後を守っている程度で歩くスピー

ドは本人の自由である。しかし、外国でのトレッキングでということもあってかな

んとなく日本人同士、つかず離れずで行動する。。

 山小屋というにはあまりに立派な宿に着くと簡単なおやつと紅茶が用意されてお

り、お茶を楽しんだりシャワー を浴びて過ごすと夕食である。さすが外国!豪華で

量も多くその上とても美味しい。夕食後は翌日のコースの説明がありサパーと呼ばれ

るおやつ!!甘いケーキとお茶が振る舞われ夕食が済んだばかりなのにパクつく外人

を見て日本人一同、ア然としてしまう。

 12月16日はミルフォードトラック最大の難所(といっても大したことはない)

であるマッキンノン峠越えの日である。生憎の雨ではあるが、ジグザグの道を登って

いく。高山植物も咲いていて楽しい登りである。峠ではコースリーダーが通過を待っ

ていてくれビスケットと紅茶をサービスしてくれる。峠にはオーバーハングした岩が

ありその岩の下は数百メートルきれ落ちている。度胸試しに岩に座り足をぶらぶらさ

せてみるが今日はガスのため下が見えず恐怖感はない。峠の山小屋で昼食を摂った後

はクィントンロッジを目指しのんびりと歩く。

  クィントンロッジの玄関には間もなく来るクリスマスを祝ってケーキのような飾り

ものも置いてある。ロッジに荷物を置いて、落差580メートルのサザーランド滝を見

に出かけることにする。ロッジから往復1時間半ほどかかるが580メートル3段の滝は

迫力十分で(といっても落差がありすぎるため近くからは全景を見ることができない)

その上滝の裏側に入ることができる言わばニュージーランド版「裏見の滝」である。

  クィントンロッジでの夕食は忘れられない味だった。子羊のステーキにペパーミン

トソースがのっておりたまらなく美味く、同行した先輩と会うたびにこの話になるほ

どである。この小屋の前庭は何と滑走路になっており飛行機(ヘリコプターではない!

)の離発着ができるのも驚きである。

  そしてトレッキング最終日を迎えた。今日も川沿いの道を行く。途中滝坪にあった岩

が水にえぐられてしまい何かの拍子に逆さまになった「ベルロック」。見つけた人も何

が楽しくて岩を下から覗いたのやら。そして終点のサンドフライ・ポイントに到着し、

ミルフォード・サウンドまで船で渡る。

 翌朝は、ミルフォード・サウンドの海のクルージングを楽しむ。船の先導をするイル

カや岩で寝そべるアザラシをなど、フィヨルドの海の眺めもさることながら楽しい一時

である。また、空いた時間を利用してヘリをチャーターして一昨日越えたマッキンノン

峠の上空を通り未踏地に降り立つ。パイロットはアクロバティックな操縦で山際すれす

れを飛んでくれる。これでは時々事故も起きるわけだ・・・。

 その後は、行動を共にした(行動の邪魔をした?)日本人の新婚さんと飛べない鳥で

絶滅が危惧されている「タカへ」を見に行ったり湖畔を男二人で佇んだりして過ごした

後、バスで数時間走ってクイーンズタウンへと向かった。ホテルにチェックインした後

に夜の町に繰り出しお土産を買ったりマクドナルドで巨大なキーウィバーガーを買った

りした。キーウィはニュージーランド固有のといった意味で、決してハンバーガーにキ

ーウィフルーツが入っている訳ではない。まして鳥のキーウィは入っていまい、たぶん

・・・。クリスマス近いせいか町はきれいにデコレーションされている。

  翌日起きるとホテルの窓から見える山は白く色付いている。ニュージーランドに来て

から日中は半袖でいられても夜はフリースを着ていたのでそれなりの気温であったのは

間違いないみたい。

 さて今日12月19日はニュージーランドで遊べる最後の日である。本当は名物のバ

ンジージャンプを体験してみたい気もするが先輩は拒否するし時間も限られているので

モーターボートに乗りに行くことにする。自分の格好のいいバンジージャンプの写真を

見せてくれた愛想のいいホテルのフロントの姉さんにお礼を言いホテルを後にし、モー

ターボートに乗りに行く。ライフジャケットを着てさほど広くもない川を猛スピードで

遡りターンをし、川岸の岩すれすれを通ったりスピンさせたり。同乗した小学生くらい

の女の子が恐怖で固まってしまったので過激さは減ってしまった十分楽しめた。

  クイーンズタウンの繁華街で家族や友人へのおみやげを買うなどをした後に飛行機に

乗りクライストチャーチでトランジットしオークランドで1泊、翌朝には成田を目指して

の機中の人となる。

  帰りの飛行機では途中のトランジットまでは日本人も少なく席の空いていたので快適

であったが、どこだったのだろう着陸し途中からの乗客が乗るなり日本人だらけになり、

俄然騒がしくなる。もうすっかり日本に帰ってきてしまったんだとがっかりしてしまう。

 成田からは車のためタダ酒もあまり飲めず映画を見たり雑誌を眺めたり居眠りをしたり

を数えられないくらい繰り返し久し振りの日本へと帰り着くことができた。