蓮華温泉ツアー
                            印南 睦美

  小雪が降り出した中、出発。待ち合わせの日光を出る時はもうかなりの雪に

なってしまった。大雪注意報がでている。関越を進むにつれて、予報通り多く

なって行く。

スピードは落ちることなく、どんどん行くのでこわい。

  どの辺で、雪がやんだのかわかならいまま、下山口に着いた。静かな夜明け

であった。ねぼけ瞳で見た風景は、雪につつまれた、かや葺民家であった。一

昼夜かけてやっとたどり着いたため眠っていない。仮眠をとることにし、シュ

ラフにもぐり込む。2時間少々の仮眠後、タクシーで栂池スキー場へと向う。

天気はよくないようだ。リフトをおりて出発。歩き出すけれど、昨夜の降り積

もった雪はおもいのほか重い。睡眠不足の体は酸欠状態でだるさも増し辛い。

ザックが肩に重くのしかかる。どうにもならない体をもてあます。蓮華温泉に

向うパーティーはずいぶん多い。

むかれつ、むかれつ、私のペースで進んでくれる。ビスタリ、ビスタリ。一歩

一歩。先週は大沢下り、楽しかった。大沢下りは試験であって、まあまあこな

せたのだから、大丈夫、行ける!!と絶大なる支援を受け、従い、思い入れだ

けで参加してしまったことに対して、心の中ではどうにもならない葛藤がさわ

ぎ出す。時間がたつにつれ雪も降り出してきている。風も強くなってきた。し

っかりついていかないと見失ってしまう。体力と気力、どうにか持ってくれ!!

ビスタリ、ビスタリ。あせる気持ちに暗示をかける。

  天気がよければ稜線を滑降するのだが、今日の天気では沢を下り早く小屋に

行った方がよいという。かかとを固定し、ヤッホーと声をかけ、順々に谷に消

えて行く。見失っては大変と私も遅れじと後を追う。

降り積もった雪は深くころぶとしんどい。何度も何度もつまずき、ころぶ、こ

ろぶ。ふきだまりにつっこんでしまい、ストック探しで30分以上もかかり、

へとへと。体力は消耗しっぱなし。これを待っている皆は寒さでふるえ、こご

えそうにしている。がまんして待っていてくれる。もういいから、とあきらめ

たら出てきた、ストッツク。人騒がせのストックであった。何度もころぶのを

くり返しても滑る楽しさも出てきて、小屋まで一気に滑り降りる。

  小屋は温泉、2食付き。夕食の飲み物はコーラかビールしかない。コーラは

飲めないのでビールにする。初めて缶ビール1本あけた。温泉もいい湯だなあ

・・・・。いい湯だなあ・・・・。満天の星、最高にうれしい。湯あがりは部

屋でこたつに入って山行の思い出話に花が咲く。共通の出来事でもそれぞれの

思い出には残っているものが、多少なりとも違っていた部分、忘れていた部分

があり、聞く事によってまた新たに思い起こし思い出をなつかしんだ。そして

それを語り、聴く若者達がいた。長い夜も明け、今日はドピカン!雪倉岳と朝

日岳に別れる。

  無線で連絡を取り合うことにして、それぞれに別れる。ラッセルもしんどく

進むにつれ傾斜もきつくなる。振り返るとこわい。シールよしっかりついてい

てくれと念じる。皆よりどんどん遅れる。時間もなくなってくる。風も強くな

ってきている。もう少しなのだけれど迷惑をかけたらいけないので、ツエルト

を出しここで待つことにする。朝日岳、雪倉岳と交信をしながら、景色にうっ

とりとしながら、Oさんとおしゃべりをしながら待つ。

いがいに早く雪倉岳からはもどり、皆いっせいに滑降!けっこうな急斜面は恐

怖におののきながらも、おいていかれたら大変。待ってくれーー。ただそれだ

けでやっとの事、降りてきた。

朝日岳も無事もどり、また温泉での夕食。満足感と達成感で今宵も山の話でも

りあがった。

  3日目、またまたいい天気。今日は下るのみ。どんどん下る。気温も上昇し

ざらめ雪。今日は暑いくらいだ。入山した日とは大違い。ゆるやかな傾斜なら

私もおてのもの。結構早くついていける。バウンドも楽しさのひとつ。ヒャッ

ホーなどと順々に成功していくと、後ろで尻もちをついている人あり。つい

「誰?」と私。「Sさんじゃないの」とKさん。「俺じゃないよ」とSさん。

すぐ後ろにいて言う。びっくり大笑いとなる。

数え切れないほどころび、足はあざだらけになっていたけれど、十数年ぶりに

Kさんの誘いでめざした蓮華温泉。たどりついた蓮華温泉。めざした雪倉岳。

思い起こすたびに私はひとり天狗になれるひとときを持てる。