仙人通信P(荒船山) 見事な東国三つ葉躑躅・東石楠の花が、荒船不動尊と弁財天とを照らす石段を登り、不動尊に一礼 して登山道に入った。白い大きな立て札に熊に注意とある。星尾峠までの沢沿いの道は、熊に遭遇し そうな感じである。カーウベルなんぞを腰に付けて鳴らしながら歩くことにした。 道の両側にはスミレ・キケマン・紫ケマンが咲く、凹凸の少ない登り易い道である。周囲は小楢の梢 に新芽が吹き、四十雀や鶯の鳴く静かで長閑な春の風情である。自分以外に人は見当たらない。 トウゴクサバノウやトウダイグサが日陰に咲く、小さな沢に掛かった橋を渡るとチゴユリが6株ほど 可愛い白い花を付けているのを見つけた。俯き加減の可愛い花に少女をダブらせカメラを向けた。 5分ほど登ったろうか、ママナコに良く似た紫の花弁のラショウモンカズラが一面に咲いていた。 それも昨夜の雨の水滴で、花が光って生々としている。近くには、赤紫の花を付けたエンレイソウも ある。カメラワークが急に忙しくなった。白い花弁に黄色いベシのスイカズラ科のツクバネウツギも 2輪づつ、こちらを向いている。ハシリドコロも茶紫の筒状の花を下向きに付けている。 ここは正に花街道である。花の多さにただただ感激だ。15分も登ったろうか、林は新緑の唐松とな り、スミレや黄色いキジムシロやツルキンバイの花が目に付く。やがて星尾峠に出た、捲き道に続い て10分ほどの急登の尾根道だ、もう熊が出る事はあるまい。周囲の林も熊笹と落葉樹の林に変わっ た。鮮やかな紫の東国三つ葉躑躅や白いガマズミの花が頭上を飾る。足元では薄紫のクワガタソウも 元気だ。白いワチガイソウが登山道の横を染めてくれる。紫のエンレイソウを眺めていると、老夫婦 が下山してきて「何かあったんですか」と声を掛けられた。「エンレイソウですよ、ラショウモンカ ズラも下で綺麗に咲いていますよ」と返した。老夫婦は改めてエンレイソウを眺め、カメラを向け喜 んでいた。滑る道に気が執られ、花を観るのを忘れていたようだ。 木の階段を上り詰めると経塚山と艫岩との分伎である。艫岩までは、遠めでも判る平坦な山頂の道で ある。道の両端には、巫女の鈴のような白い小さな花を付けたマイズルソウや、縞状の巾着状の花を 付けた綺麗な緑の葉のウスバサイシンもある。ズミも薄ピンクの花を目一杯に付け、花のトンネルだ。 分伎から30分位で艫岩に着いた。荒船山は、高さが150mもある切り立った、この絶壁(艫岩)と 山頂が平な山容を、舟に見立てての命名であろうか。内山峠の先に緑の神津牧場、その先に白煙を上 げる浅間山、裏妙義から車山までが一望できる。眼下はこの時期、正に新緑の海である。 この絶壁の上を辿ると10mm程のフデリンドウやワチガイソウが目立たぬように、そっと咲いていた。 経塚山と艫岩の分岐点に戻り荒船山の最高峰の経塚山(1423m)に登った。山頂は三つ葉躑躅・白い ガマズミで彩られていた。ヒメイチゲの開花後の葉も目に付く、マイズルソウも多い。 純白な花を付けたエンレイソウが、見てくれないのかとばかり咲いていた。 帰りは荒船の湯に浸かり、花々を思い起こし感激を新たにした。(h17.5.24)