仙人通信S(玄倉を歩く)

 丹沢の中心部に東西に大山構造帯(古くは大山―中川構造帯)と言うのがある。大山の北側から塔の
岳当りを通り玄倉から中川温泉に向う構造帯だ。玄倉は数年前突発的な豪雨による増水のため、多くの
キャンパーが犠牲になった事故で記憶に新しいと思う。周囲の山に対して急峻な渓谷なのだ。
西丹沢県民の森入り口近くの空き地に、車を止めてこの構造帯に沿って林道を2時間、県営ユーシンロ
ッジまで、瀬音を聞きながらの8kmを歩いてみた。猿が遠吠えで仲間と連絡し合ったり、カワセミが
時折大きな声で鳴く。林道は山陰に作られているため、この時期はイワタバコの花・晩秋にはイワシャ
ジンが綺麗に咲く。イワタバコの花を見る為に昨年は、6月16日に訪れた。(ジャストタイミングだ
った)今年は春先寒かったので5日程遅く訪れてみたのだ。
ところで、林道には、幾つものトンネルがあり、2個目から岩崩隧道(通称おばけトンネル)の間には、
白いウツギ・イバラや薄ピンクのマルミノヤマゴボウが咲いている。濡れたガケにはイワタバコが水々
しい緑の葉に紫色の花を付け、一面に咲くのだ。遅らして来たにも係わらず、イワタバコはやっと花芽
が膨らみ紫の色が付き始めたばかリであった(1週間は早かった)。残念である。
岩崩隧道からユーシンに掛けては、夏にはオオシラヒゲソウ・ウメバチソウ・ビランジが、秋にはイワ
シャジン・オトキリソウが咲く。この時期は、白いムカゴ状の花を付けたミズナが多く、トリアシショ
ウマやショウマのような葉を付けた紫色のアキノタムラソウも群生して可愛い。ヤマアジサイ(額アジ
サイ)やカナウツギも綺麗だ。
今日は時間的余裕があることから、雨山橋から山神峠まで往復2時間を追加した。実はこのコースは
崩壊が多く、立ち入る人が少ないのである(小生も初めて)。殆ど靴跡のない登山道には、はしご・ロ
ープ・鎖が多く、足元から沢が始まるそんな状況だ。岩石は丹沢の中心を成す石英閃緑岩と、その風化
したザレであり、濡れた木の葉と合いまって滑りやすい。
登り始めると直に黄色いクワガタソウが、顔を見せる。沢の上部の苔むす岩の上には痩せこけたツル
シロカネソウが、吹き上げる風に耐えて咲いていた。足場を決めてシャッターを切った。
山神峠の近くでは白い煙管状のギンリュウソウが朽ちた木の間から顔を覗かせていた。霧が掛かり出し
たので、峠から折り返して雨山橋に戻った。林道沿いには、キイチゴがいたる所に、たわわに実る。
低山の魅力と口に含みながらの甘酸っぱい帰路となった。
 (開花前のイワタバコ)       (トリアシショウマ)       (マルミノヤマゴボウ)


(h17.6.21)