仙人通信25(雁の腹摺山1874→黒岳1988m)

 10月11日、甲府気象台は富士山に初冠雪を観測したと報じた。12日は秋雨から一転し晴天日だそうだ。
そこで旧500円札の藍色に印刷された雁の腹摺山からの富士山を観に行くことに決めた。
 湯ノ沢の入口に車を止め、大峠まで林道を歩き、雁の腹摺山をピストンし、黒岳から湯ノ沢峠を越え
車に戻る6時間強のコースとした。
 8時半、林道は霧が濃く視界は30m程である、果たして富士山は見えるか不安はあるが、天気予報を
信じた。林道を歩き始めて観ると道端に花が多い。最初に目に飛び込んできたのが、鶯色をしたおちょ
ぼ口に白い花弁を付けたマンテラらしき花だ。ヤマシノギク・シロヤマギク・紫色のナギナタコウジュ・
ソバナ・アキノキリンソウ・二ガナ・先端に赤紫の2弁の花を付けたシオガマ・アキノチョウジである。
大峠までは花を眺めて、秋の山路の散策(アスファルト道・75分)であった。 峠の上空は青空である
が、周囲は霧が濃い。雁の腹摺山は、峠東側の登山道に沿って約1時間の登りである。整備された登山
道であるが、濡れた広葉樹の落ち葉で、靴がよく滑る。一寸登ったら、沢に筧が掛かった水の補給場に
出た。偶然、木漏れ日が射してきて、トリカブトの花に当り、紫の花弁を浮き上らせた。瞬間の出来事
であったがカメラを構えた。沢沿いの登山道には、沢山のトリカブトが咲き、綺麗である。沢の岩で気
が付いたのだが、甲府盆地を取り巻く金峰山から大菩薩・この小金沢一帯は花崗岩であり、雁の腹摺山
はその東端に当るとの事である。なんと露頭の岩は全て花崗岩である。トリカブトに混じり、タテヤマ
薊・山薊・モミジハグマ・リンドウも瑞々しい。山頂の草原に着き後ろを振り向くと、雲の上に黒く浮
かぶ富士山が望めた。半ば諦めていただけに嬉しさが込み上げた。[誰もいない静かな山頂を一人占め
出来、この富士山だ・興奮してシャッターを切った]。大峠から赤谷ヶ丸までは、熊笹と広葉樹林帯の
急な登りで35分程かかった。その後、広葉樹林からシラビソや樅等の原生林に替り、足元はスギゴケ等
の苔蒸す尾根道となった。春に咲くバイカオウレンの小さな葉が一面にあり、開花時を想像させる。峠
から75分で、針葉樹林で視界が悪い、狭い黒岳山頂に立ことができた。
白屋ノ丸を過ぎると、茅の穂が生い茂る草地に出た。目の前には無線のアンテナの立つ三つ峠・丹沢・
箱根・鳳凰三山・南アルプスが雲海に浮かぶ。富士山は雲海が攀じ登り、時折しか顔を出さないのだが
眺めは雄大だ。こんな綺麗な雲海を眺められたのは何年ぶりか。足元には背の低いマツムシソウが紫の
花を付けて迎えていてくれた、嬉しい限りだ。花崗岩の風化したザレ場を過ぎると湯ノ沢峠である。
ここからは背丈ほどある熊笹の中を沢沿いに1時間程下る。霧が出て視界が悪く、瀬音を頼りの下山で
あるが、トリカブトやピンクのシラネヒゴタイが勇気をくれた。ふと見ると目の高さに、白いジイソブ
(ツルニンジン)が咲いていた。最後に花の温もりを感じた。(h17.10.12)