仙人通信26(黒富士1635m→曲岳1642m)

 黒富士は甲府盆地の北側に坐する山であるが、知名度は低くガイドブックへの記述も少ない。
インターネットで検索すると、さすがそこそこのデータがあった。
黒富士は、戦後の登山ブームに火を付けた深田久弥の終焉の地で有名な茅が岳の隣にある山だ。
 昇仙峡ラインを韮崎より登り、敷島カントリークラブを左に折れて、観音峠に向かう林道を2km程進
んだ所(平見城)にある黒富士養鶏場の駐車場に車を止めた。八丁峠からのピストンを計画していたが、
駐車場を探している時に同年代の男性が居り、尋ねると黒富士に登ると言う。同じコースとした。
そんな訳で彼とは前後しながらの登山となった。馬蹄の跡も新しい林道を10分程進むと、太刀岡山と
黒富士の道標のある分岐点に出た。萩・小楢・萱・色づいた漆等で覆われた道をかき分けて緩やかな尾
根道を20分程登る。時折白いミヤマ野菊が顔を見せるが他の花は見当たらない。紫のトリカブトを見つ
け、ホットしたのも束の間、ナイロンロープの張られた唐松の急斜面となった。そんな登りが40分程続
き一つのピークを迎えた。黒富士溶岩円頂丘群9コの中の一つなのか。
叉、黒富士の南面の崖に見事な柱状節理があるのを発見した。なかなか綺麗で見ごたえを感じた。
ところで黒富士は、更新世の始めに四万十層に出来た火山である。北は信州峠・南は御坂の境川・西は
釜無川まで火砕流がおよび約25kmの円を描く大きさであると言う。先に触れた茅が岳は、その後にこの
火砕流を突き破り出来た安山岩の火山だ。一方、黒富士はデイサイトから出来た山で、登山道では、他
の岩石(玄武岩・安山岩・花崗岩等)は見当たらなかった。
膝丈ほどの笹とツツジ・唐松そしてリンドウや白いヨメナの咲く尾根道を50分程辿ると、板切れに曲岳
と黒富士方面を示す道標があり、分岐点だ。20分程で360度展望の黒富士山頂に漸く立てた。
茅が岳の先に八ケ岳・摩利支天を抱いた甲斐駒ケ岳・オペリクスの鳳凰三山・塩見等の南アルプス・
御坂山塊の上に浮かぶ富士・小金沢や大菩薩の山々・雁坂峠から五丈岩の金峰山・瑞牆山と秩父の山が
連なる。文句の付けようがない絶景である。紅葉には僅かに早かったが、ナナカマドの実が赤く蒼い空
に輝いていた。昼食を取り休憩した後、観音峠と平見城を結ぶ八丁峠に下り、曲岳をピストンした後に
平見城に沢沿いに下山をすることにした。曲岳の山頂で三角点を確認したが、木の葉が多く見晴らしは
さほど良くない。八丁峠に戻ったのだが、経過した時間的には黒富士からと、このピストンで約90分で
あった。峠からの下山は踏み跡の少ない登山道である。トリカブトや赤く熟れた真弓の実を見ていたら
2度程進路をオーバーランしてしまった。峠より15分程で沢音の聞える地点に出ることが出来た。踏み
跡もしっかりしており、安心しての下山と成った。峠から45分で養鶏場の上に出ることが出来た。
私を含め、たった3人の登山者でこの山を満喫できたのが嬉しい。(h17.10.25)