仙人通信28(桧洞丸1601m)

 四十年位前、中学の級友と大倉→塔の岳→桧洞丸のコースを夜行日帰りで縦走をしたことがある。
蛭が岳を過ぎた頃から小雨となり、必死で箒沢から中川温泉に下り、温泉に浸かった。力が抜けて、
最寄のバス停までリックを引きずり歩いたのだが、桧洞丸についての記憶は、皆無である。
そこで今回は、箒沢から躑躅新道を登り、犬越路を周るコースを計画した。
箒沢の上流れにある自然教室の駐車場に9時に車を止め、県道を5分ほど歩いた後、桧洞丸と道標の
示す涸れた沢から登る。沢を巻くように20分で、木漏れ日が注し、東沢の沢音が聞える緩やかな登り
だ。もみじが赤く色づき、何よりも静かである。20分ほどで、明るく広いゴーラ沢の出合いに出た。
白くごろごろとうした石英閃緑岩が沢幅一杯に有り、嬉しさが込み上げた。(これを見たかったのだ)
ご存知と思うが丹沢はこの石英閃緑岩を中心にして、玉葱のように塔の岳亜層群・大山亜層群・煤ヶ
谷亜層群・愛川亜層群が取り巻いている。そして石英閃緑岩は桧洞丸・大室山・加入道山・畦が丸等
の山に囲まれ擂鉢状に分布している。丹沢の岩石の中では一番若く、500〜700万年前に形成されたと、
本にはある。 登山道は2つの沢の中央部にあり、階段や鎖がある急な登りとなる。約1時間で展望
台だ。振り返ると富士山が目の前に望めたが、山頂までおわづけにして登り続けた。今朝はこの秋一
番の冷え込みとなり、40mm程の霜柱が白く光っている。足元をよく観ると、岩石は緑色片岩に変わっ
ている。左手に犬越トンネルに繋がる林道が、叉正面には熊笹ノ峰のガレ場が見事だ。木々もブナ・
アセビ・ツツジ等へと変わった。登山道は木製の階段や廊下状となり、太いブナの林立する尾根道と
なった。太陽電池のパネルが輝いて見えるので覗くとオゾンの測定装置である。かつてNHKが報道し
たブナの枯死調査用の機材だ。さらにブナの林を500mほど進と桧洞丸の山頂である。約3時間で山
頂に辿り着くことができた。山頂はブナの梢が遮り、視界は決してよいとは言えないが、東側に蛭が
岳・西側に富士が確認できた。尾根は緑色片岩のフォルンフェルスだ。痩せた急斜面の尾根道を熊笹
の峰に向かい下る。西側の視界が開けて富士山・南アルプス・甲斐駒が、叉近くには畦が丸・加入道
山そして真正面に大室山である。右手にはブナの梢の先に蛭が岳や袖平山も望める。40分ほど下った
ところで神の川に下る分岐点にでた。なんと今越して来た小さな峰が熊笹の峰であると知った。
さらに1時間ほど熊笹を掻き分けながら、鎖や鉄梯子のある急な下りを過ぎると、犬越トンネルへの
分岐である。5分ほどで犬越路(峠)の非難小屋に着いた。山頂から2時間も掛かり峠への到着であ
った。犬越路からは、用木沢出合いまで1時間の沢筋の東海自然路である。犬越路とは、かつて武田
信玄が小田原を攻める時に犬を先導させ、峠を越えた事に由来して名付たとある。峠からは石英閃緑
岩となった。踏み跡はしっかりした峠道であった。県道を30分程歩くと駐車場に戻れた。県道沿いの
崖にはリンドウに混じって一輪だけ開花の遅れたイワシャジンが私を迎えてくれた。
(h17.11.18)