仙人通信B{夜叉神峠}
登山道は、黄土色の唐松の落ち葉で埋め尽くされ、靴を跳ね返す感じが、娘の手を引いたバージ
ンロードのようだ。唐松の林は、雲一つ無い青空に両手を広げ、深呼吸しているように見える。
なだらかな登りはくねくねと高度を上げて行く。山の神の祠・炭焼き場を過ぎた頃から、バージン
ロードはカサコソと鳴る広葉樹(ブナ)の樹林帯に変わった。登山道はブナの実を探したのだろう
猪が鼻で掻き回した跡が続いている。所々にトリカブトの実も熟するのを待っているようだ。
梢ではジョウビタキが囀りお出迎えである。静かな山行となった。
40分も歩いた所で道はT字路となり、道標に高谷山方面と大崖頭山・夜叉神峠方面を示していた。
道標に近づくとブルーの空にくっきりと濃鳥岳・間の岳・北岳が真白の顔を覗かした。
石の道標に「夜叉神峠みち」と柔らかな草書で書かれていた。峠までは後20分足らずである。
二十歳の頃、5月の連休を使って3人で鳳凰3山を縦走した。その時にこの峠の小屋で一泊した
が、朝日に照らされた北岳は眩しかった。冠雪した北岳を今一度ここで見たいとづっと思っていた
のだった。
2日前になるが、横並びの高気圧(1024・1026)が日本上空に来ていた。妻が「明日は
どこか出かけるのか」と聞いてきた。「天気予報を見てね」と生返事をしながら(そうだ夜叉神峠
に北岳を見に行きたい、でも雨の翌日ではガスがでるので、大気が安定した明後日しよう)考えた。
南アルプス市でインターを出て芦安から広川原への林道を通り、夜叉神トンネルで駐車しての登山
である。夜叉神峠(1770m)は、まさに北岳を見るために出来た峠のようである。
カメラに望遠レンズを取り付けて眺めていると、何人かが近づいてきてファインダーを覗きたい
と言うのでおしゃべりをした。キタダケソウのこと、バットレスのこと、草つきのこと、方の小屋
のこと等・・(山の友は何時でも好い者だ)。
下山し、芦安にある日本で2番目にアルカリが高い温泉で汗を流して帰った。
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(平成16年11月17日)