仙人通信33(御岳・大岳1266m)

 登山者3人を乗せたケーブルカーは山頂駅に着いた。池袋等の高層ビルが良く見える登山日和である。
御岳神社に向かう参道を進むと、蕾の膨らんだロウバイが迎えてくれた。みやげ物店の前で「すいませ
ん、今でもおし(御師)さんて、ここでは神主さんを呼ぶのですか」と尋ねてみた。
「そうですよ、この辺の家は皆御師なんです」との返事が返ってきた。多摩川の支流にある我実家には
小生が小学校の頃まで、おしさんに一夜を提供していた。おしさんは狼2頭の描かれたお札を持ってこ
られ、夜はコタツで狼の遠吠え等の話をしてくれた事が、懐かしく思い出されたからだ。付け加えると
伊勢神宮では御師とは、下位の神官職でお札を配ったり、参詣者の案内や宿泊の手伝いをする者と広辞
苑にはある。20分程で朱塗りの御岳神社に到着した。神社の石段の下から登山道に入り、さらに平尾平
展望台手前から、雪が解けて乾いて舞う落ち葉の道を御岳奥の院へと登った。
直径1mもある大杉の林立する尾根を50分ほど登ると石造りの社のある山頂に着いた。日の出山・味
の素スタジアム・新宿の高層ビルが一望できる。鍋割山の先に大岳もよく見える。鍋割山への道は南側
が桧の植林帯であるが、北側は小楢などの落葉樹帯で奥多摩駅の方もよく見える。20分で山頂に着いた。
梢の先に川乗山が、眼下には越沢が見える。鍋割山と大岳の鞍部あたりが仏像線(断層)らしい。仏像
線は中央構造線の南側に位置し、秩父帯と四万十帯を分ける構造線である。雲取山の北から日原・奥多
摩駅・越沢、そして南側は養沢を経て五日市へと繋がる断層である。鞍部から先は、アイゼンを着ける
ようにとの注意書きがある。解けた雪がアイスバーン状態であるからだ。足元を確かめながら、ゆっく
りと登ると大岳山荘の屋根が見えてきた。山荘裏手の大岳神社の鳥居を潜ると愛嬌のある狛犬さんが迎
えてくれた。奥の院から1時間半で大岳の山頂に着いた。東側は杉等でふさがれているが、雪のある雲
取・七つ石・飛龍・笠取、手前に大菩薩から小金沢・三つ峠などの御坂、そして富士山が見える。道志
の御正体山や丹沢の山々が逆光で水墨画のようだ。五日市・信濃川上線(断層)も確認できた。ただ橋
本のビルは見えるのだが、水蒸気で霞みレンズから我が家を覗き見ることできなかったことが残念でし
た。30分近く山頂にてノンビリとして寝転んだ。シジュウカラが1mほどまで近づき囀ってくれる。十
代の終わり頃、五日市の十里木から馬頭刈尾根を登り、この大岳を経て鋸山・鋸尾根から奥多摩駅に降
りた事とか、新田次郎の「山が見ていた」と言う小説を思い出した。確か、若い運転手が2月の大岳で
自殺をしようとしたが、逆に5人の中学生を助けてしまう、そんなストーリーだった様な気がする。昔
を思い出すのも悪くはないな〜。帰りは芥場峠から多摩の奥入瀬なんていわれる岩石園を経由して御岳
のケーブルカーの駅に行くコースとした。氷ついた岩石園を訪れる人も無く、瀬音と小鳥の囀る声に満
たされた帰路でした。(そうそう本日の登山者は4名でした)  (h18.2.9)