仙人通信34(茅ヶ岳1704m)

 中央高速の昭和甲府を過ぎるころから、八ケ岳かなと、勘違いする山が見えてくる。茅ヶ岳である。
偽八ケ岳なんて云われる反面、深田久弥のおかげで有名になった山で、山梨100名山でもある。
韮崎ICから敷島に向かう県道の途中に深田記念公園の駐車場があり、ここに車を止めた。
駐車場からは、しっかりした標識があり、林道(轍などない)に入る。赤松の林を25分ほど歩くと、
綺麗に整備された林道がクロスして、その先に駐車場が設けられているではないか。この林道を横切る
と道は凹凸が多く、やや登りが強くなる。今日の東京の気温は18度が予想され、当地でも大変穏やか
な天気で、体から汗が噴出す。防寒具をリックに詰めての身軽な登山となった。頭上も赤松から唐松に
変わり明るくなる。1時間程歩いた地点で大きな岩壁にぶつかる。岩の下の方にツララが下がり、筧か
らチョロチョロと水が落ちている女岩である。水を手ですくい飲んでみたら、癖の無いまろやかな水で
ある。女岩は1枚岩かと思っていたら周囲に節理がある。この女岩を捲くようにジグザクの岩の道を
登る。唐松から楢やブナの林へと変わり、視界が開け、振り返ると鳳凰三山が白い峰を見せてくれる。
女岩から40分も登ると敷島からの登山道と合流し尾根道となる。5分程で深田久弥終焉の地の碑がある
ポイントに出た。目の前に黒富士と金峰山が見事である。茅ヶ岳は黒富士のデイサイトの上に出来た、
複輝石安山岩質から出来ている円錐形の成層火山である。スコリアやカンラン石そして赤いローム状の
火山灰が目に付く、確かに火山である。岩の尾根道を躑躅の枝を頼りに登ると25分程で頂上に出た。
金ヶ岳が北側を覆い隠すが左隣には、昨日雪崩れで話題になった真白な南八ケ岳の峰・茅野の先に御岳
が、スキー場のゲレンデのある入笠山・白く化粧した鋸・甲斐駒・千丈・鳳凰三山、北岳や農鳥も山頂
のみ・塩見・荒川も見える。富士山の周囲の御坂・道志・丹沢の大山までも、さらに目を移せば小金沢・
大菩薩・国師・五丈岩の金峰・瑞がき山等360度の展望である。登山中に2人に会っただけ、雲もゆっく
り流れ、物音一つしない、なんとも長閑な山頂だ。ゆっくり昼食をとり、周囲を何度となく眺めた。
至福の時間である。帰路は、登ってきた道以外に桜公園方面からの尾根コースがある。
時間は十分あるし、山を見ながらの下山の方が楽しいに決まっている。わりとゆるやかな落葉樹の尾根
を下るとシジュウカラが近くにきて囀りながら一緒に下山してくれる。梢の先には甲斐駒・鳳凰三山・
櫛形山が、眼下には釜無川が見える。ホッサマグナの西端である構造線もよく見える。大きなタテヤマ
薊のドライフラワーが太陽の光を受け金色に輝く、折って持ち帰りたくなったが、心を押させた。桜公
園方面の分岐点から先は幅10mほどの草地となり、岩の間の急坂が40分以上続く、なんとも足のつま先
が痛む。休んでいると、ミソザザエやホウジロ・カケス等も加わり鳴き声の披露をしてくれた。なんと
も嬉しい4時間半の山旅を終えて農道を走ると、笠雲を着けた富士が目の前だった。(h18.2.14)