仙人通信36(御坂山 1596m) 太宰治の「富士には月見草が良く似合う」の文学碑のある、旧国道137号線の天下茶屋の近くに車を 止めて、甲斐最古の官道である鎌倉往還の御坂峠までのピストンを計画した。 天下茶屋がある旧国道は昭和6年に開通し、この天下茶屋は昭和9年に作られたそうで、因みに太宰は 昭和13年9月から3ヶ月間この茶屋に逗留して「火の鳥」を執筆したと、山梨文化総合誌にある。 文学碑の横のコンクリート製丸太で作られた階段を35分程登ると、清八山からの尾根道と合流する。 この地点は旧国道御坂トンネルの上当りのようだ。ここから左に折れて、ひたすら尾根道を辿る。 尾根道はブナ・楢・唐松等の落葉樹のため、枝越しに真白な富士山や大菩薩峠・白く雪のベレーを被っ た金峰山などの奥秩父の峰が望める。夏では考えられない景色だ。小さなアップダウンを重ねていると 何も遮る物のない富士山が現れた。よく見ると山中湖・箱根・石割山等が望める。右手には小金沢や大 菩薩峠そして秩父の山並みである。神奈川の愛川から20号線に沿って眼下の藤野木まで繋がる愛川― 藤野木構造線も確認できる。因みに河口湖側にも三つ峠から始まる御坂断層がある。御坂山は山頂近く が閃緑ひん岩で愛川―藤野木構造線までを密度の低いデイサイト質の大石石英安山岩層で出来ている 山だ。岩石を眺めていると突然、50cmほどの目の前を黒いものが横切った。仰け反って確認すると、 頬の毛の傍立ちからシジュウカラ科のヒガラであることが解りほっとした。私の先導者よろしく、先へ 先へと飛んで行く。クマゲラであろうか大きく元気なリズムのある音を響かせて、聞かせてくれる。 シジュウカラやカケスも飛び交う、正に春の予感を小鳥達の声から感じられる天国である。トンネルの 上から35分程で御坂山の山頂に到着した。平坦な山頂であるがブナ等の大きな樹により視界は、良く はない。夏であれば、緑の葉によって、何も確認出来ないようだ。尾根道を黒岳方向に10分程辿ると 天竜川からの送電線の鉄塔の所に出る。切り開かれているものの、送電線が視界を邪魔するも、白い八 ケ岳・北アルプス・甲斐駒・鳳凰三山・北岳や農鳥の南アルプスが綺麗だ。八ケ岳の前には、先日登っ た茅ヶ岳や黒富士も見える、雲一つない青空だ、天候に万歳〜だ。更に30分ほど下ると鎌倉往還の御 坂峠である。茶屋の建物は閉ざしてしまったのだろうか朽ちて、なにか物寂しい。 鎌倉時代まで甲斐の国衛へ赴任した都人が往来した訳で、そんな時にこの峠で何を考え越えていったか なんて、想像しただけで胸が熱くなった。また信玄の時代には山城も作られていたと言う。駿河や相模 の情報のやり取りがなされたに違いない。寝転んで休憩していると、コガラが小さな木の小枝にぶら下 り、芸を披露してくれた。腰を上げ御坂山山頂に戻ると、年上の4名の男女パーティーが登ってきた。 挨拶を交わすと、よく見えない山頂からの展望であるが指差して山の名前を尋ねるので答えた。下山は 三つ峠を見ながら来た道を戻った。ゆっくりと4時間余りの山歩きを楽しみました。(h18.3.15)