仙人通信38(鼻曲山1654m)

 鼻曲山は約400万年前の浅間火山等の降下破屑堆積物上に100万年前に出来た成層火山である。
山頂の形が巨人の鼻の形を成し、鼻の先端が僅かに曲がっていることから山名として付けられたらしい。
桜・木ブシ・ミツバツツジに彩られた霧積湖横の林道を進み、霧積館前の駐車場に車を止めた。
昔からある金湯館へ沢沿いの道を登り、十六曲峠から鼻曲峠を経て山頂を往復するコースである。
黄色いネコノメソウやキジムシロ・キケマンが咲く、瀬音の道がスタートだ。目線を上げるとハシリド
コロが紫の釣鐘状の花を付けている。霧積川を渡りジグザク道を登るとキジムシロに混じりタチツボス
ミレや薄紅のエイザンスミレが、またヒメイチゲやフデリンドウも咲いていた。20分程で金湯館への車
道に出、標識に従い十六曲峠へと向かう。登山道の両側を水楢と熊笹が覆うが、明るい登りが続く。
先ほどの車道から30分程で剣の峰との分岐である峠に着いた。ここからは、緩やかな尾根道である。
山の南側では霧積山が、北側では浅間隠山が目の前だ。山の西斜面に出ると鼻曲山の山頂がよく望める。
デイラボッチのような巨人が仰向けに寝た顔の形をした稜線で、巨人の鼻の穴が上州側を向いている。
尾根道では木の芽も固く、春はまだまだ遠い感じだ。時折青い尾に白い横縞のカケスが飛び交ったり、
啄木鳥が打楽器を打ち鳴らす。鶯も2m位まで近づいても鳴き止まない。時折熊笹に風が走り、静かに
囁く。登山者もあまり入らない、なんとも静かな山歩きか。
尾根道の両側にガレ場があり、どちらにも火山の火口があったようで、デイサイト質の小石と安山岩
から出来ているようだ。1時間程アップダウンの少ない登山道を歩いたろうか鼻曲峠に出た。稜線沿い
には、まだ雪が残っているが滑る事も無さそうである。鼻の頭を目指す急登が25分ほど続き、鼻曲山
頂に着いた。長日向からの乙女コースを登ってこられた埼玉の夫婦と、山頂に同時に到着した。
今日の登山者は三人だけのようだ。山頂は大天狗と小天狗から成り、東側の大天狗からの見晴らしは、
南東方向のみと余り良くなく、妙義山が霞んで見える程度だ。赤城山は剣の峰や角落山で見えない。
小天狗には三角点があり、目の前に雪を頂いた浅間山がドカンと鎮座する。浅間山の左手には山頂だけ
雪のある蓼科や八ケ岳が霞む。右手には四阿山・白根山・八間山や白砂山・そして更に谷川等の国境の
峰峰が白く続く。見晴らしはすばらしいのだが、空は霞んでクッキリとは見えない。残念〜
休憩後、登ってきた道をひたすら戻り、金湯館の車道へ出た。「そうだ温い温泉の湯船に浸かろう。」
温泉はビニールトタンの覆いから綺麗なタイル張りに、電気も水車による自家発電から電力会社の供給
に変わっていた。東京オリンピックの年の秋に、会社の同じ事業部に配属になった男女15名と、横川
駅から、この金湯館まで歩き一泊したことがある。夜中までゲームや歌を歌い過した青春の頃が懐かし
く思い出された。たった一人で温泉に浸かり、昔を思い幸せを噛み締めました。(h18.4.26)