仙人通信44 鳳凰三山(2780m) 40年ほど前になるだろうか5月の連休に夜叉神峠から観音岳を越えた所で、地蔵岳の雪の多さに恐れ をなし、鳳凰小屋に下山してしまった。後で地蔵岳に登れなかった事が悔やまれた。ところで今の時期、 鳳凰三山では固有種のホウオウシャジンとタカネビランジが咲く。青木鉱泉から鳳凰三山を廻るコース を計画した。クサボタンやピンクのツリフネソウが咲く、青木鉱泉の駐車場からのスタートである。 林の中では、フジクロセンノウ・フジアザミやタカネコンギクが目を引く、更にタカネナデシコ・ハハ コクサ・萩と白い花崗岩の川原に秋の花が映える。鳳凰三山から甲斐駒ケ岳までは花崗岩で、白根三山 の四万十層とは異なり、咲く花も異なるようだ。やがて道は、ドンドコ沢の右側の唐松や白樺の林に入 り、瀬音を聞きながらの登りとなる。奇妙な沢名と思っていたら鳳凰小屋の親爺の解説では、山岳信仰 で、人生の再興を願った人が日蓮宗の僧侶を伴い、団扇太鼓を敲いて登った事に由来するとの事。言わ ば裏登山道であり、その厳しいコースが現在も残されているのだとの事である。そんな謂れに何となく 合点した。又多くの滝とも出会えたり水場もあり、ゆっくり登るのに適しているようだ。開花が遅れた レンゲショマが可愛い白い花で迎えくれる。トリカブトやヒメコゴメクサも多い、又白い尾穂状のサラ シナショマ、そしてヤマハハコやカ二コウモリも目に付く。白糸の滝を過ぎて、ちょっと疲れを感じた 時、目の前の岩にピンクのタカネビランジが30cmもある大きな株を成して咲いていた。嬉しさの余り 周囲を見ると、ダイモンジソウも見事な花だ。何よりの一服であった。黄色いアキノキリンソウ・オタ カラコウ・マルバタケブキも賑わう。6時間15分で、ピンクのヤナギランに埋もれた鳳凰小屋に着い た。山小屋のコタツで親爺と、たまたま集った4人の昭和19年生まれで夕餉までの間、人生観を交え た山談義に幸せな時間を過した。朝5時に山小屋を飛び出し、シラビソやダケカンバの中を30分詰め ると、朝日にオペリスクが神々しく現れた。更に30分ガレバを詰め、お地蔵さんの祭られた地蔵岳の 山頂に到着できた。花崗岩のオペリスクに両手で触れ、山頂に辿り付いた喜びを肌で感じた。稜線はヒ メコゴメグサ・ホウオウシャジン・タカネビランジ・ヤマホタルブクロ・イワインチンが至る所に咲い ていた。90分ほどで観音岳(2780m)の山頂に着くと黒々とした綺麗な富士山・秩父の山・甲斐駒・遠 く北アルプス・白根三山等が雲海に浮ぶ。更に約30分で薬師岳の山頂に着いた。目の高さに黒いレン ズ雲が現れた。明日は朝から雨か、今日のよい天気に感謝・感謝だ。尾根のハイマツからホシガラスが 飛び立つので、見回すと啄んで落とした松ぼっくりが落ちている。殻を剥して噛んでみると、烏が啄 ばんだだけの事はある。市売の松の実に遜色がない。ついでに赤く熟れたコケモモも齧ると酢っぱさが 口に広がる。これぞ仙人のご馳走だなんて苦笑した。下山はダケカンバ・シラビソ・唐松と植生が変わ るものの、見通しの利かない高低差1700mを3時間半掛けて林道に辿り着いた。今回唯一つ残念だった のは、青木鉱泉がお休みで湯に浸かれなかったことかな〜。(h18.9.5)