仙人通信45笠取山(1953m) 笠取山は多摩川の源流として、その名がよく知られているが、交通の便が良くないことから、訪 れる人が少ない。勝沼から柳沢峠・犬切峠を越えて、一之瀬村落の作場平からのコースである。 かつて青梅街道の落合村落に一泊して、一之瀬を経て将監峠・雲取山に登る際に、この犬切峠を歩 いて越えたことがあり懐かしく、ついつい車を路肩に止めて雲取方面を眺めてしまった。 作場平から藪沢分岐までは薄暗い檜林の中だが、瀬音が森の息吹のように聞えて、登山前に英気を 貰っているようだ。分岐から一休坂に掛けの植生は、檜からみずならに変わり、その中に黄色く色 付いた楓やブナが明るさを添える。意外と小鳥も多く、中でもカケスが山栗のイガを咥えて飛ぶ姿 を初めて観たが、納得しながらもその滑稽さに吹出した。沢にある岩は殆どが花崗岩である。金峰 山・甲武信そして大菩薩に掛けて新第三系の花崗岩だ。笠取山は、その境界であると云われており、 この眼で確認したく、やって来たのである。分岐から50分程で笠取小屋に到着した。小屋を訪れる 人も無く、看板ばかりがやけに綺麗に輝いていた。ここからは草原の尾根道に変わる。 小屋から15分も歩いた所に「小さな分水嶺」と書かれた丘があり、多摩川・富士川・荒川と大理石 に刻まれていた。登山道から雁峠に掛けては、草原で、雁坂嶺や甲武信が僅かに紅葉して見える。 振り返ると雲海に富士山が浮かぶ。正面には笠取山が青い空に高層雲である絹雲を頂き、編笠状の 山容でどっしりと構える。笠取の名前の言われをこの目で感じた。山頂に掛けては、白樺に紅葉し た楓が映えて綺麗だ。急な登りではあるが25分程で、山梨百名山の杭がある山頂に立てた。 富士山・御坂・大菩薩・雁の腹摺・三頭山・七つ石・雲取、西に飛んで雁坂・甲武信・破風・国師・ 茅ヶ岳・鳳凰・櫛形・遠く荒川や聖まで望める。こんな絶景をたった一人で独占できるなんて、最 高の気分だ。山頂の岩は先ほどの花崗岩から細かい砂岩質に変わっている。五日市から信濃川上ま で繋がる五日市―川上構造線が先ほどの分水嶺の下辺りを通っているようだ。とするとこの砂岩は 四万十帯の小河内層群(ジュラ期)と言う事になる。水干の頭から10分ほど下ると、水干に着く。 水干を広辞苑を引くと(水干:すいかん:武士の装束)とあるだけだ。水が干上がる所から水源と の意味のようだ(古語辞典にも無いが、みずひと読む)。ぽたぽたと滴り落ちる水滴を両手で受けて 飲んだなんて、何方かの文書にあったのだが、昨日の雨にも係わらず一滴も滴りを観ることが出来 なかった。水干から少し下がった所に源流が見れると、あるので降りてみると、岩の間から流れ が始まっていた。リックを放り出して、その水を手に掬い頂いた。癖の無い柔らかい水であった。 この水が138kmをへて羽田の河口に至るそんな旅の原点であるなんて考えると、ここに来て水が 飲めた、ありがたさを感じ、感激した。唐松のなだらかな登山道を進と、先程の分水嶺に着く。 20人程の団体さんで賑わっていた。藪沢を下ったのだが、この人達以外には誰にも会うことも無く 静かな山旅でした。そうそう2頭の綺麗な鹿に遭いました(h18.10.12)。