仙人通信46編笠山(2524m) 台風並みの低気圧が通過した後に、3個の高気圧が横並びでやって来た。ところが高気圧の間が 広がり雨雲が発生してしまった。予報では大きな崩れはないらしい。小雨の降る中、中央高速に乗 った。八ケ岳PAから眺めると、雲の切れ間から赤岳・権現・編笠がヒョコンと顔を出している。 観音平に車を置き、念のため傘を持っての登山となった。唐松の葉が先端の黄色から黄緑に変わる、 その様なグラデーションが大好きだ。そんな林の中を30分程して一呼吸いれると、足元に季節外れ のマツムシソウが咲いている(本日の山行では、この一輪のみでした)、健気さになんだか哀れみを 感じる。沢を挟んで反対側の山に猿の群れが移動しているらしく、口笛に似た叫び声が聞える。 スタートして50分程で展望台との分岐の雲海に着く。今度は鹿のピーと気高く鳴く声が木霊する。 その声が鳴き止むと、唐松の細かい葉が熊笹の上にさらさらと落ちる音のみとなる、そんな静寂な 世界に戻る。八ケ岳の南端に位置する編笠山は、綺麗な円錐状の山頂と、なだらかな裾野を持つ山 であるが、登山道は輝石安山岩のごつごつした登りが続く。さらに40分程で平らな押手川に着く。 押手川の案内板には、登山者が水を求めて岩を押したら、こんこんと湧き出る水に巡りあえた事に 由来するらしき事が書かれていた。この辺は水分が多いのだろうか杉蘚の仲間が綺麗だ。登山道の 両側にはコケモモの小さな葉や僅かに赤味を帯びたイワカガミやゴゼンタチバナの葉が目立つ。 木々も唐松からツガや石楠花が主体になる。左手が開け、溶岩帯が山頂から広がっていた。 火山である八ケ岳は、溶岩丘と呼ばれる安山岩質の山頂を多くの峰が持ち、編笠も例外ではない。 アメリカ人だろうか、背の高い20代と思われる男性が短パンとナップザックの身軽さで、小生の横 を2倍近いスピードで追い越していった。小生が軍手や防寒をしているのとは対照的であり、ただ ただ呆気に取られてしまった。鉄梯子を上るころから、植生はハイマツに変わり、岩の間のオトキ リソウも葉が赤く紅葉していた。2時間50分程で山頂に辿り着いた。体感温度から気温は5度位の ようだ。山頂の溶岩の間にカリヤスの仲間がベージュ色の茎を伸ばしている。青年小屋のある鞍部 の先に権現岳と阿弥陀岳が大パノラマを作る。西岳の先には諏訪湖が守屋山や入笠山・釜無山が 望める。眼下の中央高速に向かい、色付いた唐松の絨毯のスロープが広がる。この絨毯の下は阿弥 陀岳の爆発に伴う韮崎岩屑流であり、そして江戸時代から明治に掛けて、この地に稗の底村と言う 小さな村落があり、度重なる冷害の中で水利を守り、米造りをした人々が居た(海抜1200mの唐松 の中に教育委員会の立てた立看板がある)ことや諏訪の守屋族のことが頭を過る。そして40年程 前に青年小屋で缶ビールを買い、この山頂に駆け上り、飲もうとしたが半分以上が缶から吹出して しまった事が懐かしく思い出された。下山には、その青年小屋から捲き路を通り、押手川に戻り観 音平へと下った。休憩もいれて6時間の山登りとなりました。 (h18.10.27)