仙人通信50  畦が丸(1292m)

 西丹沢の奥にある畦が丸は、檜洞丸や大室山等に囲まれ、かつ山頂まで木々に覆われ
展望が利かず、そのためか訪れる人も少ない山だ。一方、丹沢の地質を知る人には、山全
体が石英閃緑岩で出来ている興味深い山でもある。
駐車場に車を停めると、自然教室のドアが開き、事務の女性が出て来られて「登山計画書
に記入してください。今日は4台も車が在るのに何方も記入してくれないの・・」とのこ
と。中川に掛かる釣橋を渡り、西沢に沿って石英閃緑岩がごろごろする沢や堰堤を越えて
の登りが始まる。せせらぎにミソザザエがピョンピョンと飛び交い、時折細長い大きな嘴
を開けて、可愛らしく鳴く。白い川原の砂に陽射が当ると、雪に太陽が当った時と同じ様
な小さな光が目に飛び込んでくる。石英の微細な結晶や劈開した雲母や角閃石からの反射
である。約35分程で権現山への登山口、そして程なく本棚沢と分かれて檜林を詰め、更
に小さな沢を越えて南側を捲く様にして、善六のタワに向かう。沢を越えた辺りからロー
ム質の霜柱が目立ち出す。今日は誰も霜柱を踏んでいない様だ。登り初めて最初のピーク
まで約2時間である。ブナとアセビの尾根道は10cm程の雪、念のため軽アイゼンを付け
て歩く。爪が雪を噛む音と、時折笹が騒ぐ風の音、そして5分間隔位で飛ぶ旅客機の音の
みだ。梢の間からは先日登った白石峠や大室山が、後方には雪化粧した檜洞や熊笹の峰が
望める。雪の少ない所では石英閃緑岩が顔を出している。確かに石英閃緑岩の山だ。
40分程で畦が丸の小さな山頂に着いた。青空には、白い富士山がクッキリと姿を見せる
(梢が邪魔するが)。菰釣山・御正体山の間には真白な農鳥から北岳が、雪が光る大菩薩
や雁の腹摺りも望める。梢に葉が付くと何も見通しの利かない山に成る様だ。眼下には、
白石峠から城ヶ尾峠も見える。その中間にあるモロクボ沢の頭まで約1時間のピストンを
する事にした。梢に富士山が邪魔されないポイントを見つけたい事と、今後そのコースを
踏む事が考えられないと思ったからだ。雪の量は北面であり20cmと少しあるが、歩き安
かった。
避難小屋のテーブルに座り昼食を摂り、大滝峠上までを30分程で下山した。30代
のカップルが登って来た。今日は私を含め三人だけか。アイゼンを外してステタロー沢・
一軒屋避難小屋・そして大滝橋へと下る。このコースは石英閃緑岩と玄武岩等との境界の
様である。
一軒屋の辺りでは、三椏の白い蕾が多く、何だか春が待ち遠しい様だ。大滝や岩の節理を
眺め、1時間半余りで県道へと辿り着いた。塔ヶ岳亜層群を膨大な力で竹の子の様に押し
上げた石英閃緑岩が頭で描けたロマンのある山旅でした。(h19.1.30)