仙人通信54 物語山(1019m)
物語山は、西上州・荒船山の東側に、鎮座し見晴らしのよい3等三角点の山である。
インターネットでの検索数は、富士山を抜いて1位だそうで、知名度は高いらしい。
山名の言われは、秀吉公の小田原攻めだとか、落ち武者の埋蔵金あたまた琵琶法師の伝説
が語源とあるが、俄かに信じがたい。しかし名前から昔人の夢を感じる。
国道254号線の近くにあるサンスポーツランドの無料駐車場に車を置いて、片道2時間
のピストンでゆっくり登ることのできる山である。スポーツランドの横にある物語山から
の沢「丹沢」を渡り、杉林の中の林道を沢伝いにひたすら登る。林道の両側には、紫ケマ
ン・黄ケマン・小さな黄色の花びらのコガネネコノメソウ・薄紫のエンコザク・タチツボ
菫・エイザン菫と高尾山の日陰沢を歩いている錯覚にかかる。キイチゴや山吹も花を添え
る。緑鮮やかなフタバアオイも可愛い花を付けている。意外にも紫の釣鐘状の花をつけた
ハシリドコロが多く、目に付く。春の花に囲まれて林道をうきうきして、50分程歩くと、
登山道の標識に到着だ。このポイントから頭上にメンベ岩が望める。この岩が物語の元と
の話もある。植林された杉・檜の中の急な登りが25分程続き、落葉樹の明るい登山道と
なる。背中に荒船山の切り立った山容がよく見える。足元は九十九折の急な登りで、安山
岩・デイサイト質の破砕した岩石の積み重ねで滑りやすく一歩づつ確認して歩く。西上州
のこの地は本宿層と呼ばれる火山噴出物が堆積し、かつ隆起・陥没を繰り返し、おまけに
火山岩の貫入もあり、多くの方の調査報告がされてきている。林道や沢筋からの観察では、
丹沢等で見られる、押上げられ傾いた節理はなく、水平によく重なった岩肌である。
登山道の横のガレ場には、タチツボ菫や色の濃いエイザン菫・白い清楚なワチガイソウが
根付き、目にとまり足を停めさせる。頭上は、黄色いアブラチャンやキブシの花が覆う。
登山道に入って1時間程で、西峰との間の鞍部に出る。岩肌には、ピンクのアカヤシオが
咲き誇る登りとなり、木や突き出た岩を頼りに、15分程登ると山頂である。山頂は、東
側が絶壁で見晴らしがよく、御荷鉾山・赤城・眼下の妙義から浅間までが展望できる。先
ほどの鞍部から西峰に登ると視界はさらに広がり、武尊山・榛名・鼻曲・から荒船まで一
望できる。神津牧場の緑の絨毯が八風山の手前に広がりコントラストを添える。妙義山に
代表される西上州の山は、安山岩や凝灰角礫岩であるため、水の侵食に弱く、逆に風化に
強いことが奇岩の不思議な別世界を作る原因だそうだ。もと来た林道まで下がり、ハシリ
ドコロを撮っていると、突然ケラがドラムを叩出した。静かな山路でもあり、双眼鏡を取
り出してじっくり観察することができました。(h19.4.23)