仙人通信55 前武尊山(2040m)
 赤城PAから、山頂や沢筋が白い武尊山(剣が峰・沖武尊・前武尊等)が、擂鉢状に侵食
されたカルデラを抱え、青空をバックにクッキリと眺められた。前武尊(マエホタカ)山
は最東端の峯である。県道64号線沿いの旭小屋のある荒川沢の林道を2Kmほど進んだ地
点にある野営場の駐車場に車を置いて、山頂までのピストンだ。
 芽吹いたばかりの唐松や山桜に彩取られた、林道を5分程進むと登山道に入る。雪解け
の瀬音に、木葉づく・鶯・四十雀の鳴き声・けらのドラム音、なんとも長閑で緩やかな登
りの山路である。ヤマタチツボや花脈が綺麗なアケボノ菫そして、鳴子ユリに似た葉に白
い花を付けたユキザサが咲き出したばかりだ。20分程で不動岳との分岐標識である。
当初は不動岳を計画したが、雪の状態からスキー場の頭部を通るコースとした。登山道は
整備されているが、背丈ほどの熊笹で視界はあまり良くない。足元では、紫のフデリンド
ウやヤット緑の小さな花芽を付けたマイズルソウが健気だ。沢沿いの登山道は、やがて左
手に前武尊の山頂を望み、天狗尾根に向かい急な登りとなる。この分では、これ以上の花
達との出会いは無だろうと諦めかけた矢先、ピンクの猩猩袴(ショウジョウバカマ)が出
迎えてくれた。雪解で寒い性であろうか丈が短い。しかし花びらは、ピンとりっぱである。
登山道は時折大きな凝灰角礫岩や多孔質のデイサイトが行き先を阻む。武尊山は四紀の初
期に活動した火山で那須・日光・赤城・浅間を貫く那須火山帯の中の成層火山である。40
分程で山頂を示す標識のある天狗尾根に出る。雪解け水が登山道の窪地に溜まる緩やかな
コースだ。その両側には、ピングの可愛い猩猩袴が沢山咲き誇る。白ポイのから濃いピン
クまで様々で、こんなに沢山の猩猩袴を見たのは初めてである。花に気を取られスキー場
の頭部まで1時間を要してしまった。ここから先は、ほぼ雪道と考え、軽アイゼンを付け
て登った。しかし、登山道は雪解け水がせせらぎ状態で、ビチャビチャである。開山者の
普寛行者の石像が安置されている近くで、猩猩袴に混じりイワナシのピンクの花が咲き始
めたばかりだ。登りが急になると、雪解け水が雪の下に空洞を造り、時折膝まで足が潜り、
山頂直下まで気が抜けない。下を向いて、スティックの先で雪の状態を確認していたら、
突然頭上から「やあー」との声掛けで驚き、振り仰ぐと私と同年代の男性が下山して来た。
「もの好きは私ばかりか、なんて思っていたんですよ」なんて軽い会話をした。
ヤマトタケルの像が立つ山頂からは、赤城、皇海、白根、燧岳、至仏、そして武尊の剣が
峰や沖武尊、遠くにはまだ真白な谷川や平標が望めた。昨日の雹混じりの天候から、こん
なに恵まれた事に感謝・感謝の5時間半の山旅でした。(h19.5.16)