仙人通信60 稲包山(1597m)
稲包(いなつつみ)山は、三国峠から白砂山に至る三国山脈の中央に位置し、山頂から
の展望が360°と素晴らしい事で知られている。 赤沢スキー場近くの舗装されたムタゴ沢
沿いの林道を50分程進み、秋小屋沢橋から電力会社の巡回コースを利用した登山道である。
林道は、尾花や萩が顔を撫でる程に生い茂り、なんとも長閑だ。尾花・萩そして濃い赤紫の
ツリブネソウやアザミ・ダテ科のオオダテ・ママコノシリヌグイ・ミズヒキ、黄色の金ミ
ズヒキ・アキノキリンソウ、アキノタムラソウ・ノコンギク・野菊、さらに風に揺れるア
キノチョウジで道の端が埋め尽くされている。一寸とセンチな初秋の佇まいだ。
秋小屋沢橋を渡り、巡回路に従い左手の林に入り、秋小屋沢の瀬音を聞きながら、暗い杉
林の中のジグザグ道だ。昨夜の雨で路面が湿り、滑りやすく、一歩一歩慎重な登りである。
表土は赤谷層の黒い泥岩質で、その中に軽石凝灰岩や安山岩に富む原層と呼ぶ中新世の中
期の地層だ。30分ぐらい登ると、北側がカラマツや潅木類となり開け、登りも山を捲く
緩やかな登りとなる。以前登った平標山や仙の倉が三国峠の向こうに顔を出す。
平標山と稲包山の間には新潟から関東方面へ送電する3系列の送電線が山の風景画を切り
裂くかの様に見える。震災の地、柏崎の原発からの送電線もどれかであろう。鉄塔を1本
過ぎて5分程で、黄色い巡回路のプラスティクの道標に小さな字と矢印で山頂を示してい
る。ここからは、両側にカバやブナ等に膝丈の笹が生い茂る九十九折の登りとなる。登山
道には刈り取られた笹が敷き詰められ、濡れていることもあり、滑りやすく必要以上の神
経を使う(敷き詰めてからの登山者が少ないようだ)。秋小屋沢橋から1時間で、先ほど
とは別系列の大きな送電線の鉄塔の下に出る。平標山から谷川岳や吾妻耶山辺りまで、視
界が広がる。花の終わりに近づいたヤナギランが数本とアキノキリンソウが鉄塔の下の草
地の端に咲いていた。一息入れていると、小生より高齢の方が一人ラジオの音と共に下山
されてこられた。すれ違い様ではあるが、初めての登山者と、会話が出来てホットした。
ここから尾根までは、赤沢山が見えるだけのアップダウンも少ない20分ほどのコースであ
る。尾根に入ると登山道は、訪れる人が少ない性であろう笹やイバラが生い茂り、覆い隠
されている。ガマズミがあちこちで、5mmもある大きな赤い実を付けている。時折吹く風
が笹の葉を鳴らす外に音の無い静かな山路だ。山頂が見えて来たときだ、紫のリンドウが
登山道の両側に見事に咲き、その中をよく見ると蔓リンドウも見えた。思いがけない出会い
に元気を貰い山頂に向かった。山頂は小さいものの、南を向いた小さな祠が、神々しく思
われ、登れた事に感謝した。眼下には苗場のホテルが、又苗場山・佐武流山・白砂山、浅
間の山、榛名・赤城も加わり、期待通りの展望だ。予報では、今日1日の晴天で明日は又
雨とのこと、感謝感謝の6時間の登山となりました。(h19.9.13)