仙人通信68 両神山(1723m)
 両神山は秩父盆地を西側の壁として立ち塞ぎ、山岳信仰・躑躅の山として有名である。
快晴が期待できるとの天気予報を受けて、早春の残雪を踏みしめたく出かけた。
両神山荘のある日向大谷から山頂を往復する約6時間半のコースである。両神山荘横から
始まる登山道は、日の光を一杯受けて黄色い輝く菜の花やサンシュウが、お出迎えだ。
200m程進むと石の鳥居あり、檜・杉の木漏れ日のコースとなる。100m程の間隔でお地蔵
さん・不動さん・如来の石碑や・・童子・・居士と刻まれた墓碑が登山道の山際に安置され信
仰の山をイメージする。日向と言うだけの事があり、暖かなのだろう菫やエイザン菫が
競って咲いている。緩やかなアップ・ダウンを30分程進むと、石灰岩がゴロゴロした小さ
な沢に出る。七滝沢・清滝小屋の2ルートを示す道標がある。雪のある時期の沢ルートは
危険とあるので避け、雪が無く檜や杉林の中の清滝小屋ルートとした。眼下の沢の瀬音以
外に静けさを破るものもなく、この山全てが自分のものと勘違いするようだ。トウゴクサ
バノウ・赤黒い芽のハシリドコロ・緑鮮やかなウバ百合の芽が元気である。左手の日陰の
山肌には残雪が木々の間から見え綺麗だ。足元の白い石灰岩や変成を受けた赤石?が目を
引く。神流川と四万十帯の間の秩父層群に位置する両神山は、両神層と呼ばれ武甲山に代
表されるジュラ紀前後の石灰岩や砂岩・粘板岩等も見受けられる。先の分岐から1時間、
登山道はプロムナードからジグザグのコースに変わり、白藤の滝まで来た時だ。視線を感
じて前を見ると、なんと10mほど先にラブラドールほどの雌のニホンカモシカが小首を傾
けて澄んだ目でじっとこちらを見ているではないか、「やあ〜会えましたね、大丈夫だよ」
なんて声を掛けてしまった。そんな自分に苦笑して・・・・。20分程で弘法大師石像が安
置された弘法の井戸が、更に10分ほどで清滝小屋である。この冬の猛威だろうか小屋から
の急斜面の登山道には、直径1mもある杉の巨木が数本根こそぎ倒れ行く手を塞いでいた。
登り初めて2時間10分ほどで、沢ルートと合流する産泰尾根に着いた。尾根を覆う雪は10
cm程と少ないが、滑る危険を考えアイゼンを着けた。尾根にはトラロープと鎖が各所に
張られスタンスの確保をしての登りである。50分ほどで両神神社の前の可愛い狛犬が迎え
てくれた。さらに雪の尾根を30分で岩の露出した小さな山頂(二等三角点)に着くことが
出来た。登り始めた頃は100%の快晴であったが、雲が出て視界を遮り、中津川を挟んで
三峰山から雲取山辺りまでと、東側の武甲山や定峰峠の山あたりまでが限界で、期待した
両神山の北側眼下に東西に帯状をなす白亜期の山中(さんちゅう)地溝帯を、この眼で眺
められなかったのが残念であった。しかし先ほどのニホンカモシカと弘法の井戸の近くで、
再会出来、下山を待って居てくれたようで「ありがとう」と声を掛けた。(H20.3.25)