仙人通信70 後袈裟丸山(1908m)
那須火山帯・日光火山群は、日光白根から西に錫ヶ岳・皇海山・庚神山と連なり、最西
端に後袈裟丸山・袈裟丸(前袈裟丸)山・小袈裟丸山が溶岩円頂丘として、南北に鎮座する。
国道122号の小中駅前から沼田に抜ける利根八木原大間々林道を峠(約1250m)まで車で
上り、郡界尾根と山頂をピストンしようとしたが、昨年の台風で林道沿いの崖が崩れ通行
止めと知り、大滝から登山口のある峠まで工事中の林道を75分掛けて歩く事とした。
歩き始めると頭上の梢が揺れ、猿が出迎えよろしく鳴きながら沢を越えて行った。沢沿の
林道の横には、アカヤシオ・山桜・キブシが萌え出した若葉に映える。山吹・野イチゴの
花・岩の間から赤紫のアカネ菫・道路脇の平地には素朴な佇まいのワチガイソウ・ヒトリ
シズカ・ミヤマキケンマ・アケボノ菫・タチツボ菫・フキノトウ・そして緑に輝くウスバ
サイシンが風に揺れて春を歌う。車で過ぎれば見過ごす花々と会え、その上林道横で伐採を
していた方からも「気をつけて」の声を投げ掛けられ、何とも嬉しい限りだ。
登山口の標識から山頂までの約650mの登りが始まる。水楢や桜・唐松の芽吹き前の尾根
を、丸太の階段に従い、ひたすら30分登ると最初のピークである。尾根の北側は唐松林、
南側はダケカンバの林、足元は10cm足らずの笹の中を2山に向う緩やかな登りだ。更に
20分で第2のピークである。尾根筋はダケカンバとなり、東側は膝丈の笹原に変わる。沢
を挟んでの山肌に、薄紫の芽吹きを待つ梢・白い幹のダケカンバが林立する。その中にピ
ンクのアカヤシオがあちこちで眩しい。遠くには足尾山地の地蔵岳・根本山・鳴神山が望
める。風に乗って瀬音も揚がってくる。この上ない何とも贅沢な長閑なコースだ。登山口
から1時間35分で十二様の祠(十二様とは群馬地方の山の神だそうで村落単位で祀った物
だそうだ)があり、横には山頂まで1.7km、登山口まで2.7kmとある。プロムナード
のコースからシラビソやシャクナゲの林と代わり勾配もきつく、おまけに雪解けの柔雪の
コースとなる。スパッツを着け、先人の足跡を、トレースして慎重に登る。その時だ、
地下足袋姿の方が下山してこられたので挨拶をすると、雪解け水が染み込んで足が冷たい
ので、途中で断念したとのこと何ともお気の毒。十二様から1.7kmを1時間40分掛け、
漸く山頂に辿りついた。噴火口こそないが岩は溶岩であり、火山であった事を物語る。
山頂からは足尾山地の山々・前袈裟丸山・庚神山・皇海山は確認できるものの、水蒸気
が上がり武尊や赤城は霞んで見えない。下りは快調で何と2時間で登山口まで辿り付いた。
車を駐車した大滝までの道すがら林道横で山の幸であるタラノ芽を両手一杯に摘んだ (合
計所要時間7時間半)。翌日、てんぷらにして春の香りを頬張りました。(h20.4.30)