仙人通信78 八紘嶺(1918m)
 八紘嶺は安倍川の源流で早川・富士川との分水嶺をなし、2等三角点の山である。
八紘嶺の名前は、[八紘一宇]からか、広辞苑による[四方]の意味から尾根が四方に延びて
いる故か定かではないようだ。今日のコースは安倍川奥の梅ヶ島温泉先の駐車場から高度
差約1000mのピストンである。安倍峠に向う林道沿いにある旅館街を抜けた所が登山口だ。
モミジ・ツツジ等の紅葉が見頃であるが、直ぐに直径20〜30cm程の手入れがされた檜と
杉の間伐展示林に突入する。登山道は表土が流され1m程のU字状の溝となり、九十九折
りで高度を上げる。足元は土砂が流され、10cm以下の扁平形状のヒン岩等が残され、正に
敷き詰められた状態で歩き易い。よく見ると岩のコーナーは角張り、磨耗による丸みは無
い。殆どが日の光が入らない薄暗い林の道で、時折広葉樹との境界に出た時に明るさを貰
う。50分ほど登ると、広い駐車スペースがある林道と出会う。ここに車を駐車する事も考
えたが、ゲートの開閉時間があり、温泉からの登山が無難と考えた。30m程進と再び登山
口の標識である。水楢・アセビ・ブナの林となり、落ち葉を踏みながらの登りだ。
30分程して安倍峠からの道が合流し、尾根道となる。さらに10分程で雲一つ無い青空に真
白に化粧した富士山が浮かびあがる富士見台である。富士見台なんて名前が気になる、多
分この先富士山は望めないだろう!よく眺めて行こう。富士川の向う側には、毛無山や長
者ケ岳の天守山地や御坂山地・目の下には大城川沿いに安倍峠に向かう林道が、北側には
鷹取山・七面山である。予感が当たりこの先、尾根の南側となり富士山は殆ど望めなかっ
た。登山道は梅ヶ島側の沢の頭に作られ砂礫を30cm程度平にしたもので、危険防止のた
めに要所要所にはロープが張られているものの滑落すると命はなさそうだ。
振り返ると十枚山・竜爪山が望め安倍川と頂きの中間に十枚山断層が在ることが伺える。
八紘嶺は四万十帯に属し、早川の奈良田・雨畑沢そして山伏・笹山の東側を通る笹山構造
線と早川を通る糸魚川―静岡構造線そして安倍峠からの十枚山断層に挟まれた瀬戸川層群
で構成された古第三紀4000万年前の地層の山である。そんな礫を踏みしめて1時間程登る
と最初のピークである。笹の原なのであるがブナ・桜・リョウブ・シラビソの梢越しにし
か富士山を初め周囲の山が望めないのが悲しい。先日の雪が尾根筋にはあるが、柔らかく
アイゼンを付けるほどでもない。真白な南アルプスの光・聖岳が青雛山の間から顔を出す。
30分程で唐松に覆われた2等三角点のある八紘嶺の山頂に着く。北側には七面山・櫛形山
を中心にした巨摩山地・白い八の赤岳編笠・鳳凰・北岳が、又笊が岳と青雛山の間に聖岳
が梢越しに見える。富士山も梢越しである。大谷嶺から山伏は木で遮られ見えない。期待
した航空写真のようなパノラマは望めず残念である。頬の白いヒガラ・嘴の上が白く赤茶
の胴のヤマガラが迎えてくれた、静かな5時間半の山旅でした。(h20.12.3)