仙人通信H(塔の岳)
 昨晩雪混じりの雨が降って、丹沢は白さが増した。中一日でまたもや雨が降ると天気予報は云う。
水無川上流の作治小屋前の川原に車を止めて、書策新道で花立から塔の岳まで登ることにした。
小屋から少しの間は雑木で、戸沢の瀬音を聞きながらの登りである。珍しいことにルリヒタキが1羽
現れて囀り始めたではないか。登山者は他にはいない、もったいない。
すぐに、檜の薄暗い林に入った。登山道は約1m程の堀割で昨晩の雪でぬかるんでいる。
檜の根っこを手で持ては、一歩一歩高度を上げる。瀬音が聞え無くなると、雪を踏む自分の足音のみだ。
時折葉の合間から日が差してくる、新大日であろう白い尾根がみえるが薄い雲がベール状に掛かる。
1時間50分もの薄暗い檜林の一人の登りは気が滅入る。大倉からの合流点でアイゼンを外している
下山者と会う。「花立から上は着けないと無理と思うよ」の一言にお礼を云い、尾根道を登った。
雪道でも1時間半位見れば行けそうである。
花立までは階段がしっかりしており、短時間で着いた。そこからはアイゼンを着けての登山となった。
若い頃はよく夜行でこの尾根を登った。そして湘南の海が綺麗であったことを思い出し、後ろを振り
向いた。遥かかなたに湘南の海が霞んで見える。
花立から上は白い綺麗な雪道であるが単調で以外と、きつい登りだ。金冷しでは玄倉から吹き上げる
風で登山道の横に小さな雪尻が張りだし可愛いい。だいぶ強く吹雪いた雪の造形と思われる。
この当りの木はウツギとツツジ・そしてブナがある。霧氷が梢についたら写真を撮ろうと期待したが
そんな現象は現れなかった。登り始めた時のコバルトブルーの空も霧が懸かり、二の塔の方向は何も
見えない。富士山なぞ望むのはとんでもない話だ。登り始めてから3時間20分、落胆しながらも塔の
岳の山頂に立った。山頂の雪には風紋が出来て、まさに自然の芸術である。風の当り方で色々なのが
ありしばし目が釘付にされる。
富士山が上下に雲を抱き、突然顔を出した。山頂の絹雲はかなり強い風に煽られている。
ラッキーである、50mmf1.4のレンズに変えてシャッターを切った(すぐに霧に覆われた、5分間の
ドラマであった)。手前の檜洞丸や蛭ヶ岳も良く見えたが、しかしである大山方面は厚い雲に覆われ
てしまって我が家の位置は確認できない。この距離であれば十分確認できるのに残念である。我が家
からは「蛭ヶ岳」「丹沢山」「塔の岳」は真正面に見えるのだが。今日の計画では新大日からの下山
を考えたが、新雪で踏み跡も不確かのようであるので、そのまま来た道を引き返すことにした。

   (山頂で思いかけず現れた富士山。h17.1.25)