1999/8/21〜22  北アルプス 「双六岳と三俣蓮華岳」

 注)今回、雨で写真を撮っていないため、DAN杉本 (SUGIMOTO Tomohiko) 氏の
   山岳展望作成ソフトである「カシミール3D」(フリーソフト)を使ったCGを
   添付しました。たぶん、晴れていればこんな景色が見えたはずです。
   なお、描画に当たっては、国土地理院発行の50mメッシュの数値地図(標高)
   「日本−U」を使用しました。
弓折岳からの双六 弓折岳からの槍 双六からの穂高連峰
三俣蓮華からの祖父岳 三俣蓮華からの鷲羽岳
1 山行月日:平成11年8月21日(土)〜22日(日)
2 山行者 :飛島、水上(画像作成 水上)
3 コース : 21日(曇)新穂高温泉〜鏡平〜双六小屋
        22日(雨)双六小屋〜双六岳〜三俣蓮華〜双六小屋〜新穂高温泉
4 記 録
  仕事の都合でなかなかまとまった休みが取れない関係で、1泊程度で登れる北アルプ
 スのコースを探していたら、このコースを見つけた。北アルプスというと、何日かかけ
 ての縦走しか頭になかったため、前回の燕岳同様、1泊程度で楽しめるこのコースに気
 がついたときは、正直言って新鮮な驚きだった。
 
  新穂高温泉には安房トンネルを利用すれば、ゆっくり走っても松本から1時間30分
 ほどしかかからない。私は、金曜日の夜、新穂高温泉の駐車場で夜を明かすべく飛島さ
 んを拾って夜の安房トンネルを越えた。
  
  新穂高温泉では、バスターミナル手前のスノーシェッド脇から入る無料駐車場に車を
 止めた。この駐車場は、上宝村村営で収容台数も100台以上あろうかという大きな駐
 車場だ。夏のハイシーズンは過ぎてしまっていたが、駐車場にはかなりの台数が止まっ
 ていた。久しぶりの車中泊だったが、涼しかったせいもあり熟睡してしまった。

  翌日、5時30分出発。駐車場奥の「連絡遊歩道」を通ってバスターミナル前広場へ。
 ここには、トイレや無料の公衆温泉もある。すでに登山者も多く見られるが、大半は西
 穂高に登るべくロープウェイ方向に流れていった。ここから約1時間30分、ワサビ平
 の小屋までは林道歩きだ。単調な道ではあるが、右手の穴毛谷の崩壊や山頂付近から崩
 れ落ちている沢を見ているとあまりのすごさに驚いてしまう。途中、橋脚が傷んだ中崎
 橋を渡って沢の右岸に移る。笠新道を見送りしばらくすると、ワサビ平小屋につく。こ
 こでは集団登山の中学生が、送迎のバスから降りて準備体操を行っていた。私たちは、
 この中学生の集団に飲みこまれないように、トイレを済ませるとすぐに歩き始めた。

  ワサビ平からしばらく歩くと林道は再び沢の左岸に渡るべく橋に出会うが、登山道は、
 橋のたもとを沢の中を通っていく。登山道左手は大きく崩れた崩壊壁で、崩れの大きさ
 にまたもや驚いてしまった。道は、左から降りてくるガレた大きな沢の中を石畳の道が
 続いている。よく整備された道で非常に歩きやすい。

  ワサビ平から1時間、8時に秩父沢に着いた。ここは、水場となっているところで、
 休憩には良いところだ。ここからは穂高連峰を望むことができる。飛騨側からの穂高は
 いつも見ている並びとは反対で、いつもは左から西穂高、前穂高と続くのに、今日は、
 右から続いている。見慣れていないせいか、少しおかしな感じがする。

  秩父沢から樹林を過ぎる、イタドリが原と呼ばれる斜面を登る。夏の最盛期にはいろ
 いろな花々が咲いたのだろうが、8月も終わりに近づくとその残骸を見せているだ け
 だ。ここは、広々とした明るい沢状の地形で、晴れている後ろから日に照らされるが、
 今日は曇り。しかし、体調不良のせいか妙な汗をかいてしまい、鏡平への大曲であるシ
 シウドが原では、思い切り水を飲んでしまった。鏡平へはシシウドが原から右手の尾根
 を回りこんで隣の沢を登る。ここも、イタドリが原同様、明るい。やがて傾斜がゆるく
 なり木道が出てくると池があり、すぐに鏡平の小屋に着いた。秩父沢から2時間かかっ
 た。

  鏡平の小屋はきれいな2階建ての小屋で、かき氷もある。もっとも、今日は氷が切れ
 ているとのことだったが・・・。ここからの展望も素晴らしかった。秩父沢同様、穂高
 連峰が見られるとともに槍ヶ岳から樅沢岳までの裏銀座の稜線がぐるっと見渡せる。後
 から聞いた話しだが、ここは小屋前の池に槍ヶ岳が写り、写真を撮るにはよい場所なの
 だそうだ。しかし、天候はゆっくりと悪くなりつつあり景色が開けたのも一瞬だった。

  鏡平の小屋からは池を橋で渡り、尾根を登っていく。そして、1時間ほどで樅沢岳と
 笠が岳を結ぶ稜線に出た。ここからは後1時間で双六小屋である。多少アップダウンの
 ある稜線を30分ほど歩くと、道は次第に尾根の西を巻くようになる。すると、大きな
 山体の双六岳と樅沢岳との大きな鞍部に双六池と双六小屋が見える。広々とした鞍部の
 向こうには山体に行く筋もの崩れた赤い筋を見せている鷲羽岳が見える。この山は燕岳
 からも見ているが、見た感じがまるで違う。その崩れた赤い沢筋は大きなつめで引っか
 かれたようで痛々しい。

  双六池は水が少なかった。梅雨明け頃ならばまだ豊富な水をたたえていたのかもしれ
 ないが、アルプスの少女ハイジに出てくるよな山上の池とは少し趣が違った。双六小屋
 は、池側に石を積み上げて風除けにし、正面を鷲羽岳に向けている。私たちは、小屋前
 のベンチで昼食を取ることにした。今日の予定はここまでとなっているためゆっくりす
 るはずだったのだが、ポツポツと雨が降ってきた。急いで小屋の受付をして中に入った。
 すると、しばらくして雨は本降りとなった。そして、これが鷲羽岳などの見納めになっ
 てしまった。

  雨は次第にひどくなった。集団登山の中学生たちもずぶぬれになって小屋に入ってき
 た。こんなときは、引率の先生も大変だ。4つの班に各20人ほどの中学生だ。遅い班
 は3時過ぎになって小屋到着だ。それ以外にも、たくさんの客が小屋にあふれていた。

  自炊する飛島さんとは別に、私は小屋で食事を取った。メニューは、鶏肉のフライ2
 切れ、かぼちゃ等野菜のてんぷら、マカロニサラダ、キャベツの千切りが一つの皿にの
 り、そのほかに、そうめん、煮豆と切干大根、漬け物にご飯と味噌汁。ご飯が少しうま
 く炊けていなかったけれど、おかずはおいしかった。最近の山小屋の食事はいいですね。

 
  翌朝、誰かの時計の目覚ましの音で目が覚めた。時間は3時台。しばらくすると何人
 かが起き出したのか天気の話しをしている。しかし、その声が聞こえなくても天気はわ
 かった。雨だ!時折激しく雨が屋根を叩く音が聞こえる。昨日からの雨はやんでいない。
 今日は、三俣蓮華往復して後はのんびりする予定だから、7時ないしは8時ごろまでに
 やんでくれればいい。そうは思っても、やはり気がかりだった。
 
  宿泊客が起き出して、小屋の朝食が始まった。私たちも、自炊場で朝食を取る。自分
 は、面倒だったのでコンロを持ってこなかった。当然、コッフェルも持ってきていない。
 ということで、飛島さん持ってきたものを借りて紅茶を飲む。起き掛けの朝食はなかな
 か進まないものだが、紅茶にパンを浸して食べた。その昔、小学校の給食でパンに牛乳
 をつけて食べていた奴がいたけれど、あれだけはできなかった私でも、紅茶に浸して食
 べるパンはうまかった。

  天候は回復の兆しはなかったが、とりあえず、出発。小屋から双六岳までは、初め、
 少々急な坂を登るが、巻き道の分岐までくれば、後はそれほどでもない。頂上台地の一
 角に上ってしまえば、広々としたなだらかな斜面が続いている。もっとも、ガスと雨で
 周辺がどうなっているのかまったくわからなかったが。

  双六山頂から稜線沿いに三俣蓮華に向かう。それほどのアップダウンもなく、晴れて
 いれば鷲羽岳や黒部川源流域の山々を眺めながら歩くのだろうが、雨ではどうしようも
 ない。雨も次第にひどくなってきた。風は、南側から吹いていた。そのため、尾根筋や
 稜線の南側を歩いているときはまともに雨を受けた。反面、北側に来ると雨・風とも弱
 くなり「すわ、天候回復か?」とも思えたが、実際はそんなことはなく歩き出したとき
 よりも雨・風とも強くなっていた。
 
  三俣蓮華山頂もガスの中。初老の人が一人いただけだった。巻き道を通ってきたそう
 だ。巻き道分岐までいっしょに降りて分かれた。その初老の人は三俣山荘方向に歩いて
 いったが、私たちも時間さえあれば、雲の平まで行きたかった。あぁ、休みが取れれば
 ・・・。分岐からの巻き道は、「これが巻き道?」と思うほどなだらかな斜面で、広々
 とした道は、気持ちが良かった。最盛期には、お花畑になるのだろうと思える道を進む。
 稜線と違って山頂等の目印がなく、また、周囲も見えないため、自分がどこらを歩いて
 いるのかよくわからない。時計で時間を見ながら自分の位置を想像するのみだ。

  6時30分に双六小屋を出て、2時間で三俣蓮華、そしてまた2時間で三俣小屋に戻
 ってきた。天候は回復の目立った兆しがない。ただ、出掛けには暖かだった気温も心持
 ち冷えてきている。天候は回復傾向らしいが、いつになったら晴れるのか想像すらでき
 ない。自分としては、小屋に戻る頃までに雲の切れ目や青空が見られたら、小屋に停滞
 して午後にかけようと思っていたのだが、双六小屋に着いても雨は強かった。しばらく
 待ってみようとも思ったが、小屋で何もすることなく停滞しているのも嫌だったし、こ
 こでじっとしているのも寒くて、しかたなく下山することとした。それでも、鏡平への
 下りになるまでに晴れれば、双六小屋に引き返そうと思っていたが、天気の回復はなか
 った。

  そして下りついた鏡平も雨。未練も完全に吹っ切れて、鏡平で雨の中で昼食。小屋で
 は、停滞している人たちが何人もいたが、時間を考えると双六に登るには十分過ぎるほ
 どの時間がある。この人たちは、小屋前からの槍ヶ岳の写真を狙っているのだろうか?

  秩父沢に下りてくる頃には、空には晴れ間がのぞき、少し悔しい。地元の飛島さんは
 「また来ればいい」というが、そう簡単にいかない自分としては悔しくてたまらなかっ
 た。もう1日休みがあるのだから停滞していても良かったけれど、下りてきちゃったか
 らね・・・。

  新穂高についた頃には雨は上がっていた。後は、風呂に入って帰るだけだ。今回の計
 画でも入ろうと考えていたバスターミナル前にある無料温泉は、4時で終了。現在、4
 時10分。当然入れない。しかたがないので、川で汗を流した。そして、駐車場につく
 と、また雨。これで、本当にあきらめがついた。ここで晴れていたら、あきらめがつか
 なかったからね。
  
  「まあ、また来ればいいや。」この駐車場の雨でそう思えた。今度は十分に休みを取
  って晴れた日の雲の平へ行こう!