1999/12/29〜2000/1/1   西穂高 ピラミッドピーク

西穂高岳丸山から
霞沢岳を望む
西穂高独標からの
西穂〜奥穂
西穂高岳丸山から
焼岳を望む
・12月29日(水)〜1月1日(土)
・北アルプス 西穂高 ピラミッドピーク
・浅川(撮影:浅川)
  山行報告

期 日 :1999年12月29月〜2000年1月1日
行 先 :西穂独標
メンバー:浅川浩三(単独)

  雪の穂高の撮影を目的に西穂山荘に出かけて見ました。雪は少な目でしたが、2日間、天候に恵まれ雪の穂
高を眺めることができました。

12月29日(水)曇り
 昨夜、上野発23時54分急行能登に乗り込んだ。年末の帰省客のためか予想以上に乗客は多く、出発後3
つ目の駅でやっと座席に座ることができた。富山から高山に出て、バスで新穂高温泉に着いたのは11時半近
くになった。雪の奥飛騨を思い浮かべていたが、新穂高温泉近くまで来てやつと雪が目に付く程度であった。
空はどんよりと曇っていた。一休みするためバス終点の駅に入ってみると、2〜3パーティの登山者が出発の
身支度をしていた。槍ヶ岳や穂高岳に向かうとのことであった。ロープウェイ利用の私には本格的な冬山登山
をする彼等が羨ましかった。
 バスターミナルから少し歩いてロープウェイ駅に着く。ロープウェイは途中で1回乗り換えて、昨年作り直
した2階建てのロープウェイに乗り込み、一気に標高2,000mまで行く。ここまで来るとさすがに冬山で
ある。1m近くの積雪はあろうか。ロープウェイ終点駅で昼食をとり、午後1時、駅を後にする。
 天候の回復の兆しもなく、穂高も笠ヶ岳もすっかり雲に覆われ何も見えなかった。しかし、ルートにガスが
かかることもなく、のんびりと歩くことができた。年末なのか登山者が沢山入っているらしく、しっかりとし
たトレースができていて、無雪期の登山道より歩き易い。アイゼンなしでも歩けるが、少しでも楽に歩きたい
ので、ロープウェイ駅からアイゼンを着けた。しばらくはトウヒやシラビソの平坦な樹林帯を行く。
3〜4日前に降ったのか、樹林は雪を被り大きなクリスマスツリーのようになっていた。昼も過ぎていたため
か、登山者は少なかった。
 しばらく行くと登山道は尾根の鞍部へと下る。鞍部で一休みしていると、2組のパーティが楽しそうな話を
しながら追い越して行った。ここから、いよいよ急登となる。いくらしっかりしたトレースができていてもア
イゼンを着けている方が楽に歩くことができた。急登とはいってもそれほど長い距離でない。この登りを越え
れば西穂山荘に着くと思うと、重い荷であったが少しも苦痛に感じなかった。
  急登が終ると、しばらくなだらかな登りとなり、樹林が疎らになり明るくなった。いつの間にか辺りはガス
に包まれていた。霧氷の付いたダケカンバがシラビソの樹林の中に点々と見えた。なだらかな登りも終わり、
平坦なトレースを辿ると目の前に西穂山荘がガスの中にぼんやりと見えた。2時30分、西穂山荘に着いた。
小屋の周辺の積雪は、ロープウェイ駅周辺より少し多い位で、平年並とのことであった。
  宿泊の受付を済ませ、周辺の様子を見に出かけることにした。冬、ここに来るのは初めてなので、どんな場
所で撮影したら良いのか皆目検討がつかなかった。このため事前に様子を見ておきたかったのである。ガスで
視界がなく無意味なことと思ったが、丸山まで行って見たが、やはりガスの晴れる兆しはなかった。
小屋に戻って見ると登山客が思いの外少なかった。安房トンネル開通後は、正月休みはかなり混雑すると聞い
ていてが、そんなことはなかった。この日の宿泊客は20人程度だった。山歩きの疲れはあまりなかったが、
夕食後、夜行列車の睡眠不足を取り戻すため、7時30分、早々と寝床についた。

12月30日(木)晴
 5時起床、外に出てみると空には星空が広がっていた。今日は思いがかなえられるかも知れない。
星空を見たとたん、しゃきっと目が覚めた。急ぎ出発の身支度をする。
 5時50分、西穂山荘を後にする。今日は、丸山周辺からモルゲンロートに染まる西穂と、丸山の東斜面を
少し下り霞沢岳の夕景をメインに撮影しようと期待に胸が膨らんだ。
小屋から北に少し登ると、直ぐ森林限界となる。しばらくの間はヘッドライトが必要であった。
前線が通り過ぎたばかりなのか、風はかなり強かった。丸山山頂の少し手前の東斜面に少し下りて強い西風か
ら身を避けた。西穂の山稜から盛んに雪煙が上がっていた。尾根筋は強い風が吹いていたがほんの少し東斜面
に下りると、殆ど風がなくなった。雪を踏みならし、三脚を構え、日の出を待った。気温は−7℃程度で、こ
の時期としては随分暖かかった。山で見る日の出は何時見ても美しい。特に厳冬期の日の出は感動的で気品に
溢れている。純白な雪に覆われた山々に朝日が当たる姿は威厳に満ち、人の心をどこまでも透明にしてしまう
。ここから見る日の出は、赤岳(八ヶ岳)の少し右側となる。東の空は八ヶ岳連峰の山稜まで雲はほとんどな
く条件は良かった。太陽が山稜から姿を現すと、厳冬期特有の赤く軟らかい光がこぼれ始める。新雪を被った
西穂の山稜が青みかがった薄ピンク色に染まり始め、足下の雪面も同じように色付き、次第に山全体がモルゲ
ンロートに輝き始めた。しばらくすると薄ピンク色は濃いピンク色に変わり、やがてはオレンジ色となり、太
陽が山稜から離れ、高く昇るとたちまち色は褪せて純白な世界となった。この間20分位であったろうか。
 朝の撮影を済ませ、朝食とした。昨夜、山小屋で作ってもらったおにぎりに、ホッカイロを当てタオルで包
んで置いたので暖かった。私にとって、条件に恵まれた撮影後の休憩は、充実感に満たされ、生きる実感を独
り噛みしめることのできる一時である。しばらく休憩していると、いつの間にか風が治まり、申し分ない登山
日和となった。休憩後、独標に足を向けることにした。独標最後の登りの岩陵の中程で、70才になるという
登山者に追いついた。
 岩稜帯には雪が付いていたが、多くの踏み後があり、ルートがはっきりしていて、特に難しい所はなかった
。しかし、彼は慎重にゆっくり登っていたので、彼を追い越して山頂に着いた。山頂からは、西穂、奥穂、前
穂、笠ヶ岳、焼岳、乗鞍岳、そして遠くは八ヶ岳、南アルプス、富士山と申し分ない展望が広がっていた。
しかし、光はトップライトとなっていて撮影条件は思わしくなかった。記念撮影を済ませ休憩していると、先
ほどの登山者が上がってきた。彼の足取りを見て、こんな所まで登ってきて大丈夫だろうかと気にかかってい
たが、世間話をしている間に、彼は厳冬期の槍・穂高縦走経験もある登山経験豊かな持ち主であることが分か
った。彼は感慨深く穂高の山稜に目をやり「ここで随分多くの若者が命を落としたからなあ」とつぶやいた。
しかし、白銀の穂高は一片の暗さもなく登山者を魅了してやまない姿を見せていた。私も、こんな年まで元気
で何時までも山を登り続けたいものだ。
 山頂を後に、ピラミッドピークまで足を延ばしたが、山歩きとしては面白いが撮影ポイントに恵まれず、下
山することにした。撮影をしながら、1時、西穂山荘に戻った。早速連泊の手続きをとったが、ここは良心的
で連泊は2,000円引きとのことであった。昼食を取り、休憩もそこそこに出かけることにした。山岳写真マ
ニアとは因果なもので、天気が良ければ少ないチャンスとばかりに、朝から夕方まで休む暇もなく撮影ポイン
トを求めて歩き回る宿命にある。再度、独標から下山途中、目星をつけて置いた撮影ポイントに向かうことに
した。丸山の少し手前の東斜面を下り、前景に雪の被ったシラビソを入れて霞沢岳を撮影する目的であった。
稜線から一歩東斜面に足を一歩踏み入れてみると、強い風で雪が吹き飛ばされている稜線とは違って深雪とな
っていてツボ足では撮影ポイントを探し廻るのに難儀した。やっと気に入った撮影ポイントで三脚を構えほっ
とした。霞沢岳は、あまり雪が付いていない様子であったが、日が傾くに従い夕景の中に端正な姿を見せてい
た。太陽が焼岳の西側に落ちる寸前には、霞沢岳の前景となっているシラビソの樹林に被った雪が真っ赤に染
まった。小屋に戻る時、最短距離と思い、稜線に出ず直接小屋に向かってトラバースしたが、きついラッセル
を強いられてしまった。5時30分、西穂山荘に戻った。
 今日も泊まり客は少なく、昨日より少し多い程度でゆっくりとした夕食を済ますことができた。

12月31日(金)快晴
 4時10分起床する。外に出てみると満天の星空が広がり、無風状態となっていた。気温−7℃、昨日と同
じであった。早々に身支度を整え出発することにした。5時10分、ヘッドライトを付けて小屋を出た。
既に先発組のヘッドライトの明かりが見えた。昨夜も早く寝たので体調は良かった。風もなく、気温もそれ程
下がらなかったためか、夜道でも快調に足を進めることができた。独標の登りに取り付く頃には夜が明けヘッ
ドライトを外すことができた。
 6時30分、独標に着く。既に2人のカメラマンが三脚を構えていた。昨日の好天で少し雪が解け岩陵帯の
岩肌が目に付くようになっていたが、風もなく、空気の透明度も昨日より更に良くなり撮影条件はこの上ない
ものであった。遠くは八ヶ岳連峰、南アルプス、中央アルプスそして富士山がくっきりと見えた。
先客の1人は、昨日もこの周辺を撮影していた人で、地元から来たとのことだった。もう1人は写真を始めて
まもないとのことで、岩登りから写真に転向したとのことであった。年齢は私より随分若い様子であったが、
何故か馬が合い帰りのバスまで一緒になった。厳冬の早朝、ヘッドライトを付けてここまで撮影目的に来る人
は、いくら名の知れた撮影場所でも我々3人だけだった。お互いそのキチ振りに苦笑した。モルゲンロートに
染まる穂高連峰の撮影は前々からの夢であった。それがこんなに早く好条件の下に実現するとは思ってもみな
いことであった。とぎれとぎれではあったが、撮影しながらのキチ同士の写真談議は楽しいものであった。
 朝焼けの撮影が終わる頃、10人ほどパーティが登ってきた。西穂まで行くと云うことで、狭い山頂で登攀
の準備をした。初心者がいるのかザイルまで出し、万全の準備をしていた。彼等が立ち去ると、また山頂は静
かになった。撮影を終え、のんびりと朝食を取った。2人のカメラマンも去り、私も9時、独標を後にした。
11時30分、ところどころで撮影しながら西穂山荘に戻った。連泊の手続きを済ませ、ロープウエィ駅に下
ることにした。ロープウエィ駅の屋上展望台から西穂を撮影するためである。
途中、2箇所で撮影した。1時、ロープウエィ駅に着く。駅食堂で昼食を取り、屋上展望台で西穂の撮影をし
た。時間的にトップライトで撮影条件は悪く記念撮影にしかならなかった。しかし、ここからの展望は良く、
西穂に関しては独標からの展望に勝るとも劣らないものであった。1時40分、ロープウエィ駅を後にする。
3時、西穂山荘に戻る。夕照の西穂撮影のため再度丸山に向かう。つい先ほどまで空には雲一つなかったが、
急に雲が湧いてきた。丸山に着いたときにはすっかりガスに包まれていた。日没まで粘ったおかげで、日没直
前、ほんの僅かな時間ガスが晴れ、束の間の夕照の西穂を撮影することができた。
5時10分、西穂山荘に戻る。既に辺りはすっかり暗くなり、小雪がちらついていた。小屋に入ってみると、
昨日までとはうって変わって満員の賑わいとなっていた。何でも、毎年、大晦日は初日の出を見るために満員
になるとのことであった。夏並の混雑となり、定員300人のところ、ほぼ満員になったとのことであった。
更におどろいたことに、この人達の中には「初日の出ツァー」登山募集に参加して来た人が20数人いるとの
ことであった。こんなことまで商売になる世の中になったのかと唖然としてしまった。
 しかし、この夜は定員を超える程の泊まり客はなかったので、夏期におけるほどの混雑はなく、ゆっくりと
寝ることができた。

12月1日(土)小雪
 朝起きて外に出てみると、風も強く小雪が舞っていた。初日の出は見ることはできなかった。初日の出を見
る目的でツァーに参加した人達にとっては、さぞかし恨めしい朝であったろう。しかし、2日間晴天に恵まれ
撮影にあちこち歩き廻った私には、のんびりした朝が迎えられてほっとした。
  8時30分、西穂山荘を後にする。9時15分、ロープウエィ駅に着く。ここから昨日独標で知り合った若
者と島々まで同行することとなった。新穂高温泉バスターミナル前の無料温泉で4日間の汗を流した。
同行の相棒の案内により、帰路は平湯経由島々から松本に出て、予定より1日早い帰宅となった。

[反省]
   1.次回は大晦日を避け、西穂山荘と独標間で気に入った撮影ポイントを探しじっくりと撮影したい。
   2.新穂高温泉までのアプローチを事前にもっと良く調査する必要有り。
   3.撮影山行なら、2月の好天を狙って行きたい。正月の時期では、岩陵に付く雪が少なくあまり見栄えが
    しなかった。

[行動時間]・・・撮影をしながらの移動なので、コースタイムとせず行動時間とした。
  12月29日
  ロープウェイ駅(1:00) → 西穂山荘(2:30) → 丸山周辺 → 西穂山荘(5:30)
  12月30日
    西穂山荘(5:50) →  丸山周辺 → 独標 → 西穂山荘(1:00) → 西穂山荘下周辺 → 西穂山荘(5:30)
  12月31日
    西穂山荘(5:10) →  独標(6:30〜9:00) → 西穂山荘(11:30〜12:10) →  ロープウェイ駅(1:00〜1:40) →
      西穂山荘(3:00) → 丸山周辺 → 西穂山荘(5:10)
  1月1日
    西穂山荘(8:30) → ロプウェイ駅(9:15)