2000/3/18〜20  那須・大倉山
那須大倉山 大倉山から茶臼岳 那須三倉山
山行報告 
期 日 :’2000年 3月18〜20日
行 先 :那須・大倉山
メンバー:溜口、浅川(撮影)

 2日間天候に恵まれ、5月連休の頃のようなぽかぽか陽気の中、雪の大倉山を楽しんできました。

3月18日(土)晴れ
 昨年の彼岸の連休に三斗小屋をベースに大倉山を目指したが、吹雪かれ敗退し、帰路、峰の茶屋を越える際
、強風のため痛い目に遭った。今年の彼岸の連休は、昨年の遭難があってのことか大黒屋も煙草屋もまだ営業
を開始していない。昨年の経験から、今年は深山ダム経由で三斗小屋宿に入り、ここをベースに大倉山を目指
すことにした。
 もうあまり雪は降らないと思っていたが、昨日寒波が来てまた雪が降った。林道入り口の「幸の湯」から道
路には雪があった。深山ダムの堰堤には、相棒の四駆でも乗り越えられない程の吹き溜まりができていた。
幸い、吹き溜まりはそれ程のものではなく、スコップなしでも素手で除雪することができた。車は、沼原発電
所入り口前までしか入れることができなかった。先週下見に来たときには、四駆なら雪が解けて大川・大沢分
岐近くまで行けると思っていたが甘い誤算であった。ここから先は吹き溜まりも所々にでき、とても車を乗り
入れられる状況ではなかった。発電所入り口前の空きスペースに車を置いた。天気予報によると、今日は移動
性の高気圧が日本列島をすっぽりと覆うとのことであったが、まだ強く冷たい風が吹いて、時折日が差す程度
であった。
 7時50分、身支度を整え出発する。ここからカンジキを着けることになるとは予想もしていなかった。
歩き初めてしばらくすると、たちまち汗が噴き出し、とてもダブルヤッケは着ていられなかった。寒いと思っ
ても寒暖計を見ると0℃そこそこで、それ程気温は下がっていなかった。小さな発電所脇を通り過ぎ大川と大
沢の分岐に1時間程で着く。
 ここから大沢に沿って作られた林道を行くことになる。しばらく行くと道路脇に軽の四駆が置いてあった。
2〜3日前に駐車したものと思われた。こんな雪の中に車を放置しているのは、何か悪いことでもあったので
はないかと二人で心配した。雪は、ここ2〜3日で随分降ったように見えた。いよいよこの辺りから雪は深く
なった。しかし、まだ時間も早かったためか、雪が腐れることもなくカンジキが効いてスムーズに足を進める
ことができた。林道はしばらく行くと大沢の川岸に作られ、行く手右側は急な山の斜面が迫っている。大沢橋
近くになると急斜面から雪崩れた雪で林道は埋まっていた。9時50分、大沢橋に着く。
 小休止の後、林道を忠実に進むことにした。しかし、ここからが忍耐の歩きとなった。いつの間にか風は治
まり、空には雲もなくなり雪面に眩しく日が差していた。次第に気温が上昇し、雪は腐れてきた。腐れた雪は
カンジキにへばりつき、足を持ち上げるのも儘ならず、普段使わない筋肉が吊りそうになった。カンジキをピ
ッケルで叩いて雪を落としながらの前進となった。泣き面に蜂とはこのことか、どこでどう間違ったのか分か
らないが、別な林道に入ってしまい20分程のロスをしてしまった。更に、しばらく行って道路が大きくカー
ブする所で沢筋に迷い込み、ここでも10分程のロスをしてしまった。元のルートに戻ると上から下りてきた
カンジキのトレースがあった。我々が沢筋に迷い込んでいる間に我々と出会わず通り過ぎたらしい。どうも途
中に駐車してあった軽の四駆の人らしかった。
 11時55分、沼原分岐に着く。ここから三斗小屋宿までは残すところ僅かであったが、重い荷と腐れ雪の
ためペースはすっかり落ちた。何度か小休止をし、12時45分、三斗小屋宿に着いた。昨年の同じ時期に比
べ随分雪が多かった。昨年の積雪は、せいぜい30cm位であった。しかし、今年は1mを越えている。
 急ぎテントを設営し、昼食にすることにした。日当たりの良い場所は、雪面が解けてテント場に相応しくな
かったので、アスナロの樹林の中の日の当たらない場所にした。アスナロの葉は平たく分厚いので、断熱材と
してテントの下に敷いて利用した。1日分の水として、川から5リットルの水を汲んで来た。この川には三斗小屋
からの沢水が流れ込んでいるが、冬季は三斗小屋には人がいないので煮沸すれば問題ないと思い利用すること
にした。テントの中でラーメンを作り昼食を済ませやっとほっとした。
 天気が良いので、今日は行ける所まで行って見ることにした。2時30分、テン場を後にする。今年は雪が
多いので藪を気にすることは全くなかった。神社脇を通り、1,443m地点に向かって直登することにした。
この山も、この程度雪があると藪を回避する必要もなく快適であった。しかし、風も無風状態になり、気温が
上がって雪は腐れて膿んでいるようであった。最初の急斜面は難なく登り切ったが、1,443m地点下の斜面は斜
度がきつく、腐れて膿んだ雪に手こずった。ルートは雑木林の中だが、隣接する木の生えていない沢状の窪地
には、小規模ながら雪崩れ跡が無数にあった。樹林帯といえ不安であった。4時、何とか1,443m地点に着く。
ここは、木の枝が少し気になったが茶臼岳の良い撮影ポイントとなった。時間的にここより先に進んでも、も
っと良い撮影ポイントが保証されるか否か分からなかったので、ここで日没まで粘ることにした。時間が遅く
なれば雪も堅くなり安心して下山できるであろう。
 日没まで雲は一つも湧かなかったが、気温が上がり西の空は春霞となり弱々しい夕日となった。期待した夕
照の茶臼岳は赤く染まらなかった。日没は5時20分近くであった。日が落ちると気温が急激に下がり始め、
先ほどまでの腐れ雪が凍り始めた。5時半、撮影ポイントを後にする。心配していた急斜面の雪も堅くなり、
快適に足を進めることができた。月明かりでテントまでヘッドライトは不要であった。6時30分、テントに
戻った。
 今夜は相棒の炊事当番であった。これまで朝夕の食事は主に私が献立し料理してきたが、今回は1日ずつ当
番とすることにした。彼の準備した今夜の献立は肉鍋であった。しかし、野菜を忘れてきたと相棒は小さなパ
ニックに陥った。幸い、私が野菜を少し多めに持ってきたので急場は救われた。今回はアプローチが楽とのこ
とで何かと宿泊グッズを持ってきた。ランタンもその一つで、テント内が明るく暖かく快適となった。
宴会も終わり、寝袋に入ったのは10時近くになった。

3月19日(日)晴れのち薄曇り
 天気の崩れが少しずつずれているようであった。予報では今日の午後にも雨が降るとのことであった。しか
し、天気の崩れる兆候はなかった。空はすっきりと晴れてはいなかったが、明け方まで月明かりがあり、星も
出ていた。気持ちよさそうに寝入っている相棒を起こすのは気の毒であったが、3時半起床とした。のんびり
と朝食を済ませたためか、出発は5時20分となった。既にヘッドライトは必要なかった。1,443m地点少し手
前で目印用のチシマザサを切り取った。稜線で吹雪かれた時のための目印とするためである。
 7時、1,443m地点に着く。東の空には薄く雲が掛かっていた。剣ヶ峰の少し左に太陽がぼんやりと昇った。
すっかり夜は明けたが、空はすっきりとしなかった。直ぐに崩れてくるような様子はなかったが、午後から崩
れてくると云う天気予報を予感させるような空模様であった。天気の崩れる前に何とか大倉山に着きたいと思
い急ぎ足を進めた。ここからは、これまでの様な急登はなかったがしばらく痩尾根が続いた。規模は小さかっ
たが雪庇が行く手右側に続いていた。何時の間にか日差しも強くなり、気温が上がってきてシャツ一枚となっ
た。いよいよ雪が腐り始めカンジキに雪が付き足が重くなった。雪庇の先端にあまり近づかないように注意し
ていたはずであったが、突然相棒が雪庇の付け根近くにできたクレパスに落ちた。腰まで落ちて脱出にもがい
ている様子が滑稽であった。よく見ると雪庇の先端から4〜5mのところに割れ目が20m位走っているのが
確認できた。しかも割れ目の上には雪が覆い、割れ目と思わせる窪みが続いているだけであった。
そのうち私もこの割れ目に足を踏み外したが、とっさに腹這いになり直ぐ抜け出すことができた。抜け出した
跡を見ると、数メートルの深さのクレパスが走っていた。それから慎重に足を進めたつもりであったが、相棒
がまたクレパスに落ちた。底まで落ちることはなかったが、今度は胸まで落ちた。幸いにも背負っていたリッ
クが歯止めとなって底まで落ちなかったらしい。足掛かりがないともがいていたが、割れ目が狭かったらしく
心配することもなく一人で抜け出すことができた。それからは、老人が杖を突くようにしてピッケルで割れ目
を確認しながら歩いた。知らない人が見たら妙に滑稽な姿であったろう。
 雪庇帯を抜けると、気持ちの良いブナ林の丸い尾根筋となった。前方左には大倉山、右側には流石山が純白
に輝き、振り返って見ると茶臼岳をはじめとした表那須連山が連なっていた。撮影には今一であったが、風も
なく薄日が差して暖かく、またとない登山日和りとなっていた。小休止の後、更に足を進めた。樹林も疎らに
なってきたので木の枝に赤ビニを付けた。稜線に近くなると樹林は消え、小灌木は完全に雪の下埋もれていた
ので、先程切り取って来たチシマザサの先端に赤ビニを付け適当な間隔で立てて行った。
森林限界を超えると雪は締まり、暖かい割にはカンジキに雪が着かず快適となった。
 9時15分、1792m地点に着いた。昨年は、ここに着いた途端吹雪かれて敗退し悔しい思いをしたが、今日
は何事も起こらなかった。空模様はすっきりとした青空にならなかったが、天気が崩れる気配はなかった。
流石山からこちらに向かってトレースが続いているのが見えたが、鞍部で途切れているらしくここまでは伸び
ていなかった。昨日のトレースと思われたが、途中で引き返したのであろう。
この尾根一帯は、年間を通して、県内で最も私の好きな場所の一つである。古里に戻ったときのような少年の
頃の思いが胸に蘇る。思い入れが強過ぎるためか、いまだに思い通りの作品が撮れたことがない。しかし、何
度ここに来てシャッターを切っても飽きることがないのは不思議なことだ。
 ここからは、のんびりと撮影しながら大倉山に向かった。シュカブラあり、樹氷あり、純白な尾根が続き遠
景には茶臼岳があって撮影の被写体には事欠かない。撮影条件として青空とすっきりした光が欲しかったが、
これ以上望むものは贅沢と云うものだろう。
 10時15分、大倉山に着く。山頂の灌木は雪の下になり、無雪期とは違って360°の展望となっていた。
しかし、春霞となり会津駒ヶ岳がぼんやりと確認できる程度であった。相棒に三倉山まで足を延ばしてみたい
かと確認したが、撮影時間が無くなってしまうので、行かなくて良いと言った。彼は、私以上に写真好きなよ
うだ。登山だけを好む者であれば、ここまで来て、こんな良い条件下で三倉山まで足を延ばさない者はいない
であろう。
 気温は上がり、風は無風状態に近かった。山頂でコーヒーを沸かし、早めの昼食とした。私には三倉山
まで行って見たい気持ちもあったが、彼の意向に合わせることにした。11時、山頂を後にした。
下山しながらのんびりと撮影した。いつの間にか頭上の空は青空となっていた。天気は崩れるどころか回復し
てきた。12時40分、1,792m地点に戻る。来るときには気付かなかったが、この辺り一帯には適度にカーブ
した素晴らしいシュカブラができていた。朝夕のような斜光条件が整っていたら、傑作間違いない写真が撮れ
たことであろうが、如何にせんトップライトで陰が殆どなく傑作のできる条件でなかった。
 いよいよ下山を始めると、登って来たときとはうってかわって、腐れ雪は更に酷くなっていた。カンジキを
外し、ツボ足となった。痩せ尾根の急坂は慎重に下った。乱暴に足を進めると足場ごと雪が崩れ落ちるのでは
ないかと心配になり、後ろ向きになって、つま先でステップを作り下りた。
心配していた1,443m地点近くの急斜面は昨日からのトレースを辿ることで難なく下ることができた。
 2時35分、山斗小屋宿に着いた。テントに戻りほっとしたためか、お互い急に腹が減ってラーメンを作っ
て食べた。野菜も何も入れないインスタントラーメンであったが、特上の味がした。昨日の夕食は遅くなって
しまったが、今日は早々と5時頃から夕食を取ることができた。写真撮影を目的に山に入ると明るいうちに食
事をすることは稀であるが、明るいうちに一杯やるのも贅沢である。しかも、満足した山行を終えた後の晩酌
は格別であった。天気は今日一日、遂に崩れることはなかった。
 8時、寝袋に入ったがまだ月明かりがあった。

3月20日(月)風雪
 夜中に、テントに雨が打ち付ける様な音がして目を覚ました。顔を外に出してみると、それは雨ではなく霰
であった。うっすらとテントに雪が被っていた。良く寝ている相棒には悪かったが5時半に起床した。
外に出てみると風雪となっていた。今日は下山するだけで何もすることがなかったので、緑茶を飲んでから紅
茶を飲んで、余った食料は全部料理して優雅な朝食とした。随分のんびりしていたので、テントを撤収して出
発したのは9時になってしまった。山の上部の樹林に吹き付ける風が唸りをあげていた。時折強い風が吹き抜
け地吹雪となった。冬に逆も取りしたため雪は締まって、カンジキを着けた足は軽やかだった。20分で沼原
分岐に着いた。風は益々強くなってくるようだつた。大沢橋に10時に着いた。来るときは、ここから三斗小
屋宿まで3時間近くかかったことが嘘のようであった。林道の岩陰でコーヒーを沸かし、30分程の休憩をし
た。時間が経つに従い、雪が止み、雲も切れ青空が出て日が差してきた。2日間の気温の上昇で雪は随分解け
ていた。大川・大沢分岐より少し上に駐車してあった軽の四駆の脱出跡が生々しく残っていた。しかし、車が
なくなっていることでほっとした。やはり、来るときに我々がルートを間違って引き返そうとしている間に通
り過ぎ、カンジキのトレースだけを残していった人たちの車だったのだろう。2日間、好天が続き、しかも連
休のためかか、この辺りまで何台かのオフロード車が乗り入れた跡があった。車の轍を歩くためカンジキを外
すと急に足が軽くなった。ペースが一気に早まり、11時50分、沼原発電所前に着いた。車を駐車していた
周りの雪はすっかり解けて2日前の冬景色の面影はなかった。
帰路、板室にある黒磯市営の温泉に立ち寄った。時間あったので2時間程くつろいだ。


[反省]
    1.雪庇の付け根にできている割れ目(クレパス)にあまり注意していなかったが、この程度の山の雪庇
    にできるクレパスでも意外と深く数メートルはあった。底まで落ちると脱出が困難と思われた。
    特に、割れ目に雪が覆われている場合は要注意であることを体験した。相棒は2度クレパスに落ちた
    が、幸いにも背負っているリックに引っ掛かって底まで落ちずに済んだ。
    2.1,443m地点の手前、150m位、雑木の樹林帯であるがかなりの斜度となっている。初日の午後、この
    斜面を登ったが、気温が上昇し雪が膿んで雪崩はしないかと心配した。事実、樹林の生えていない沢
    状の場所では、雪崩跡が小規模ながらあちこちにあった。帰りは日没後、雪が固まってから下山した
    ので問題はなかったが、このような条件下では樹林帯といえど十分な注意が必要であることを思い知
    らされた。

[コースタイム]
    3月18日
      深山ダム沼原発電所前(7:50) → 大川・大沢分岐(8:50) → 大沢橋(9:50) → ルート間違(10:30〜11:00)
        → 沼原分岐(11:55) → 山斗小屋宿(12:45〜2:30) → 1,443m地点(4:00〜5:30) 
    → 三斗小屋宿(6:30)
    3月19日
      三斗小屋宿(5:20) → 1,443m地点(7:00) → 撮影(30分) → 1,792m地点(9:15) → 撮影(30分)
       → 大倉山(10:15〜11:00) → 撮影(80分) → 1,792m地点(12:40) → 三斗小屋宿(2:35)
    3月20日
      三斗小屋宿(9:00) → 沼原分岐(9:20) → 大沢橋(10:00〜10:30) → 沼原発電所前(11:50)